Panic Party 第十四回 宴、終るとき。




『どっがーん』

 そんな冗談みたいな擬音が会場中に響き渡った。

 アーチェの放った魔術によって生み出されたエネルギーはそのままゲームに対する過負荷に変わり、管理システムを直撃した。

 ディスプレイからは火花が散り、観客のほとんどがパニック状態に陥った。

 無論、和樹や瑞希もそのひとりだ。

「ななな、なんだぁ?」

「ちょ、ちょっと、和樹。これってやばいんじゃないの?」

 瑞希の言う通りだった。この会場はもとより、かなりの人間で埋め尽くされている。このままでは確実にケガ人が出る。

『会場のみなさん、どうか落ち着いてください。今全力でシステムの復旧中です。どうか、落ち着いてご自分の席に…』

 スピーカーから佐祐理の声が聞こえてきたが、そんなもの気休めにさえならなかった。パニックは人から人へと伝わっていき、混乱した人々は出口に向かって殺到した。

「一体どうなっちゃったわけ!?」

 瑞希は完全に取り乱していた。

「くっ、とにかく大志を見つけるぞ。このままじゃわけが分からん」

 こみパにて、こういう騒ぎは幾分なれている和樹は、瑞希の手を引っ張って『関係者以外立ち入り禁止』の扉にかけこんだ。

 その中は中で、スタッフが走りまわっており、まともに進める状況ではなかった。その中を二人は懸命に進む。

「大志、大志ぃ! 居たら返事をしろ!」

 そう、声を張り上げると、腕章つけたスタッフのひとりがぴたりと足を止めた。大志だった。

「む、同士か。ここは危険だ。早く出口の方に…」

「そっちの方が危険だって。それよりも一体何が起こったんだ?」

「我輩にもさっぱり分からん。何者かがシステムに侵入し、負荷をかけてシステムを破壊したらしい」

「じゃあ、あの乱入者の剣士と女の子は?」

「多分、何かのウイルスの類だ。ハッカーはあれを介して一度に信じられないほどのデータを送り込んだのだろう。その圧力に耐えられなかったようだ」

 良くは分からないが、誰か、悪意を持った人間が、このゲームのシステムを破壊したということらしい。

「これからどうするんだ?」

「我輩はまだすることがある。同志達はあそこの関係者専用の非常口から出るんだ。早く!」

「分かったよ。お前も、そんなに無理するなよ、行くぞ瑞希」

「う、うん」

 和樹は瑞希を連れて走り出そうとして、

「同士和樹!」

 呼び止められた。

「貴様ほどの男が、運命に導かれぬはずがない。また『来たる日々』に逢おうっ!」

 そう言って、大志は人ごみに消えた。和樹は大志の不可思議な言動になれきっているので、さして気にする風でもなく、出口に急いだ。





 ここは、ゲームという名の元に隔離された世界。あまりに強すぎる力の奔流に耐え切れず、今にも消えようとしている世界。

「ちょっとやりすぎたみたい。その人、大丈夫?」

 アーチェはホウキでぷかぷか浮きつつ、倒れている志貴をその手に抱いているアルクェイドに問いかけた。

「気絶してるだけみたい。それにしても、無茶してくれるわね」

 二人には外傷はない。アルクェイドが空想具現化で防いだのだ。この世界は志貴やアルクェイド達の世界とは隔離されているが、クレス達の世界とは何の因果か、わずかに繋がりがあるらしい。だからクレス達もここに迷い込んだのだし、アルクェイドも空想具現化を使用することができたのだ。

「それにしても、あなた達の世界には、あなた達みたいな人がたくさんいるの? あなたの雷はともかく、そこの剣士さんの時空間断裂は明らかにこちらの世界で言う『魔法』の域に達している」

「うーん、どうなんだろ? どう思う、クレス」

「さぁ、よく分からないけど、結構いるのかも知れない」

 アルクェイドは「そう」と呟き、志貴を見た。クレスもまた志貴を見て、

「目を覚ましたら、その人に言っておいてくれないかな。こんな強敵と戦ったのは初めてだって」

「うん、伝えておく。あなた達はもう帰るの?」

「そうだな、直ぐに帰らないと。僕達が居なくなって、ミントもびっくりしてるだろうし」

 言いながらクレスは剣を掲げた。その剣が青い光を放つ。

「面白かったよ。多分無理だと思うけど、また逢おうね」

 アーチェはアルクェイドに笑いかけて、ホウキから降り、クレスに駆け寄った。

「クレス。今度は正確にね」

「分かってる。刻の剣よ、アセリア暦4354年、アルヴァニスタの『たべすぎ』に」

 光が爆発し、クレスとアーチェを包み込んだ。そして光は徐々に収まっていき、それが消えたときには二人の姿もまた、消えていた。

 アルクェイドはそれを見送ってから、大きく背伸びをして、

「さて、わたし達もそろそろ目覚めましょうか」

 満足そうに言う。

 志貴はすやすやと寝息を立てていた。





「ふぅ、ようやくひと段落付いたようだな」

 先程まで会場をかけずり回っていた大志は、大儀そうに腰を下ろした。そこに佐祐理が歩いてきて、先程煎れたお茶を手渡した。

「ご苦労様です、大志さん。結局何から何までお世話になってしまって」

「いえいえ、佐祐理女史。我輩が好きでやってることです。それよりも、どうでした今回の成果は?」

「あははーっ、まぁ、なんとも言えないってところですね。トラブルのせいで最後まで出来ませんでしたし」

「しかし、異世界からの来訪者とはまた。やはりあのことと関係があるのですか?」

「いいえ、どうやら無関係のようですね。まだ当分は先だと思いますから」

 大志は「そうですか」と呟いて、茶をすすった。

「これから、佐祐理はまた忙しくなります」

「そのようですね。まぁ、そのときは微力ながらこの九品仏大志、お力にならせていただきますよ」

 佐祐理はにっこりと笑って。

「ええ、頼りにしてますよ」





「全く、一体なんだったんだろな?」

 帰り道、和樹は呟いた。

「うん、良く分からなかったけど。でも、面白かった」

 結局最初から最後まで混乱しっぱなしの瑞希は少しだけ嬉しそうにそう言った。

「…そうか? いや、そうだな。確かに面白かった、それに…」

「それに?」

「次の同人誌のネタも決まったしな。行って良かったよ」

「あ、そうなんだ。どんなやつなの?」

「秘密。出来てからのお楽しみってことで」

「えー。まぁ、いいけどね。楽しみにしてるわよ」

「それとだな、瑞希。次の即売会で、売り子やってくれないか?」

 瑞希はちょっと驚いたような顔をして、でも、直ぐにいつものように笑って言った。

「仕方ないわね。今回だけよ」


 END




  


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