Panic Party 第十三回 FIGHTING OF THE SPIRIT




 どうやら、戦いというのは避けられないものらしい。自分の生まれ故郷が襲われ、父親と、母親を亡くしたあの日からたびたびそう思ってきた。そして今回もまた、自分の意思とは関係なく闘いが始まろうとしている。

「なぁ、アーチェ。ここはどこだと思う?」

「よくは分からないけど、この感じ。まるで『ヴァルハラ戦役』のときみたい」

 彼女の言う通り、そこはある意味ではまさしく『戦場』だった。この肌が泡立つ独特の空気。自分の剣士としての勘がここは決闘の場であると告げている。クレスはエターナルソードを鞘から抜いた。

 どうしてこんなところに来てしまったのかは分からない。まぁ、伝説の剣にいいかげんなことを要求した自分が九割九部方悪いのだろうが。

 いつからそこにいるのか、自分たちを待ち構えていたのか、それとも全く予期していなかったのか。それはよく分からないが、とにかくその相手を見る。二人組の男と女。ふたりとも、見たこともない服装をしている以外はどこもおかしな所がない、普通の人間に見える。少なくとも外見は。

 ここが『戦場』に居る限り、やはり相対すものはどちらかが倒れるまでは闘わなくてはならないのだろうか。

『Ready?』

 そんな文字が視界に広がる。男の方が何かを叫んだが、よく聞き取れなかった。

『Fight!!』

 そう表示された瞬間、クレスは動いていた。





 試合開始と同時に、赤いバンダナの剣士はその大きな剣を構え、ピンク色の髪の毛の女の子はホウキでふわりと宙に浮き上がった。

『魔神剣!』

 剣士がそう叫ぶのと同時に、志貴は歯噛みした。そして、最近の自分の近況を振り返ってみて、少しだけ暗い気分になる。

 と言うか、今のこの状況。とんでもなくデタラメな話だと思う。しかし、それもある意味いつものこと。状況はいつだって待ってはくれないし自分もその都度すぐに動けていた。もし、そうでなければ自分は今、生きてはいないだろうと思う。だから今回も…

「アルクェイドッ!」

 やはり体は反射的に動いていた。志貴はその場を飛びのいて、剣士の放った、地を伝う衝撃波を避けて叫んだ。アルクェイドはすぐにその意を察し、ホウキでふわふわ浮いている女の子目指して走った。

 相手が浮いている以上、接近しての攻撃しかできない者はどこまでも不利である。しかし並外れた身体能力を持つアルクェイドなら、その限りではないということだ。 

 志貴はメガネを外して、ナイフを逆手に持ち替えた。2、3歩で勢いをつけて、剣士に向かって一気に走る。

 見たところ剣士はかなりの使い手だ。リーチでもこちらが圧倒的に劣っている。長期戦はうまくない。ならば初撃だ。初撃で決めるしかない。幸いこちらには相手を確実に一撃で仕留める『直死の魔眼』がある。そして、相手の持つ剣は相当に大きい。空振れば大きな隙ができることだろう。相手の攻撃を避けて、後の先を取るしかない。

『魔神剣っ!』

 走り迫る志貴に向けての牽制に剣士は再び衝撃波を放った。志貴は走ったまま重心を落とし、一気に跳躍してそれを飛び越える。剣士の間合いに入った。

『閃空…』

 剣士は踏み込みつつ、裂帛の気合を放った。それと呼応するように、志貴と剣士の間に極限まで高められ、圧縮された気柱が立ち上った。

「くっ…」

 志貴はその圧力に蹈鞴を踏んだ。剣士は更に踏みこむ。志貴は咄嗟に腰を落とした。

『裂破ぁ!』

 まるで烈風のような突きが志貴の頭上を通りすぎて行った。志貴は低い姿勢のままナイフをくるりと持ち替えて、折り曲げたことで膝に溜まっていた力を一気に解放し、

「とったっ!」

 伸び上がるような突きを放つ。狙うは相手の左胸。そこにある『点』を一気に刺し貫くっ!

『がきぃん』

 金属音。

 志貴のナイフは分厚い鎧に阻まれ『点』には届かない。志貴は舌打ちしてナイフを再び逆手に持ち替え、相手の伸びきった腕に走る『線』を絶とうとして、

「なっ」

 絶句した。

 今までは剣士の『点』とその剣の切っ先にのみ、注意を向けていたせいで分からなかったが、改めてみるとそれは異常だった。

 少ないのだ。剣士の体に走る『線』の数が。それも極端に。

 『線』の数は生命力の強さと反比例する。一体この剣士はどれほどの生命力を有しているのだろうか。

『破っ!』

 剣士は腰をひねって、伸びきった腕を横薙ぎに振るった。志貴は再びかがんでそれを避け、距離を取ろうと後ろに跳ぶ。しかし、志貴の予想以上に剣士は素早く刃を返し、一気に踏みこんだ。

『虎牙…』

 音の速度を遥かに超えた切り上げが、志貴の手にしたナイフを弾き飛ばした。剣士はそのまま跳躍し、

『破斬っ!』

 その勢いに任せて剣を振り下ろす。

(やば…)

 志貴がそう思考した瞬間、その剣は彼の頭上ぎりぎりで受け止められていた。二人の間に割って入ったアルクェイドの爪によって。

「志貴、あの女の方、ちょろちょろと飛び回ってて、全然当たらないわ。先にこっちを叩くわよ」

 どこか苛立った口調でアルクィドは言った。あの大剣を受け止めてさえ、その爪が折れるということはないらしい。

 アルクェイドは体当てで剣士を突き飛ばした。剣士は2、3歩たたらを踏んだが、すぐに持ちなおして剣を構えた。

 志貴が上を見上げると、ピンク髪の女の子が空中に静止したまま微笑っていた。多分相当に『良い性格』をしているのだろう。アルクェイドが腹を立てているところを見ると、攻撃を避けながらアルクェイドのことを罵倒しまくっていたのかも知れない。その彼女がこの場にはどこか不釣合いな程のんきな声で言う。

「クレス〜、ちょっと大きいのいくからね。当たったらごめん」

「な、ちょ、アーチェ。考え直せっ!」

 突然、慌てふためくクレスと呼ばれた剣士。良くは分からないが由々しき事態であるらしい。

「やだぷ〜、呪文唱えるからちゃんと時間稼いでね。『天光満つるところに…』」

 そのアーチェと呼ばれた女の子が唱える『呪文』を聞いて、クレスの顔色が少し青くなったが、彼は頭をぶんぶん振って、剣を構えなおした。

「えぇい、もうヤケだ。いくぞっ!」

 クレスの剣が青白い光を放つ。それと同時にアルクェイドの足元を中心として青白い半球状のドームが形成された。

「うわ、何だこれ」

 弾き飛ばされたナイフを取りに行こうとしていた志貴は突然目の前に現れた壁に阻まれて足を止めた。

「これは…固有結界? いいえ、違うわ。これは、まさか…」

 アルクェイドは自分の爪を叩き折った。

「志貴っ!」

 志貴は呼ばれて振りかえり、視界にアルクェイドと、ドームの外で青白い光を放つ剣を携えたクレスの姿を見止めた。

『次元斬っ!』

 気合一閃。クレスは、時空間の断裂によって形成されたドームを真っ二つに断ち割った。

 断ち割られたドームは霧散していき、それが消えた後には誰も居なかった。

「仕留めたか。これでアーチェの魔術の巻き添えは避けられそうだな」

 クレスは膝に両手を置いて、息を整えた。やはり大技なので体力を使う。そして息を十分に整えてから、剣を鞘に仕舞おうとして、

「な!?」

 咄嗟に身を捻った。

 その瞬間、志貴の持つ武器が鎧の肩の部分を斬り飛ばした。

 クレスは志貴を慌てて突き飛ばし、剣を構える。切り裂かれた鎧の断面は寒気がするほど滑らかだった。

「レ、レアプレートが…」

 クレスが着ている鎧は、かの名工ギースが製作した特別なものである。それでさえ『直視の魔眼』の前では無意味だった。

「志貴〜、ナイフ拾ってきたよ」

 てくてくと歩いてきたアルクェイドはナイフの刃を仕舞って志貴に投げてよこした。志貴はそれを左手でキャッチして、右手に持っていた武器を投げ捨てた。地面でからんと音を立てたその武器、それは鋭く、鋭利な爪だった。アルクェイドから渡されたそれで志貴はドームの『線』を切断し、脱出したのだ。

 志貴はナイフを構えて、改めてクレスを見て、正確にはクレスのやや後方の上空を見て、目を点にした。

「…なぁ、アルクェイド」

「何?」

「俺さ、すごい嫌な予感するんだけど」

「ふーん、奇遇ね。実はわたしもなんだ」

 志貴の視線の先、そこにとんでもないエネルギーが集中していた。風に乗って声が聞こえてくる。

『出でよ、神の雷』

 その声を聞き取ったのか、クレスはギョッとして後ろを振り返り、

『空間翔転移っ!』

 逃げた。

 どうやら『空間翔転移』というのは先程の技のように、時空間を操って、任意の場所にワープする技であるらしい。まぁ、そんなことは志貴とアルクェイドにとってはどうでもいいのだが。

「いっくよ〜、インディグネイション!」

 アーチェの声と共に、空中にプラズマのような電気の塊が複数表れて収束していき、

「ああ、今夜はこんなにも…」

「月出てないって」

 アルクェイドの突っ込みチョップの感覚を最後に、志貴の意識は途絶えた。




  


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