アカい世界。

 

 クラい世界。

 

 両者が入り混じる狭間の刻。

 

 その刻の中――― 彼らは対峙した。

 

 

 

―――― お前等には…死んでもらう」

 

 告げられた言葉は、鋭く突き刺さる。

「…んだと?」

 明らかに、その瞳と言葉に秘められているのは敵意。

 目の前のコイツは敵だ、という完全な認識。

「死んで貰う、と言ったんだ」

 淡々と、まるでなにも考えていないかのように言葉を紡ぐ。

 

「…悪いな、相沢」

「北川、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだよ――― !」

 

 ここで殺されてやるわけにはいかない。まだやらなければならないことがたくさんある。

 それになにより――― 自分自身が死にたくはない。

 だが、やるっていうなら相手になる…!

 

「ダメだよ…祐一……」

「悪いな名雪。俺とアイツはこうなる宿命だったみたいだ」

 祐一の腕をつかみ、止めようとしている名雪の手を振り解く。

「そんな…」

「安心しろ。俺は死なない。北川も…殺しはしない」

――――

「名雪…俺を信じろ」

 諭すように語り掛ける。この場に、名雪にいてほしくはなかった。

 これからはじまるのは間違いなく殺し合い≠セ。

 祐一は北川を殺そうとは思っていない。殺さずに捕らえたいのが本心だ。

 だが――― 北川はどうだろうか?

 殺すつもりでかかってくるだろう。そうなれば、自分もその気でいかなければ易々と殺されるだけだ。

 そんな渦巻く不安などを隠し、伝えた言葉に、

「…分かったよ祐一」

 名雪は答えてくれた。

「よし、じゃあ…行け」

「うん…気をつけてね、祐一…」

 名雪も自分がしなければならないこと分かっている。

 他の仲間に伝えなければならない。

「あぁ、分かってる」

 名雪の言葉に返事を返し、出来る限りの笑顔を向ける。

 その顔をみて少しは安心したのか、名雪が走り去った。

 いち早く、他の仲間たちにこの現状を伝えるために――――

 

 

「さぁ…はじめようか――― 相沢」

 名雪の姿が見えなくなった頃、北川が口を開いた。

 その言葉に乗せられているのは確実な殺意。

 それに相乗するかのように北川の手に、空間から滲み出すように――― 拳銃が現れた。

 それをまっすぐに祐一へと向ける。

 

「北川、お前は…俺が止めるッ!」

 

 

 瞬間、祐一は地を蹴り―――

 

 

 ふたりは激突した。

 

 

 

第1話   い つ も と 同 じ 朝

 

 

 目が覚めた。

 

「ふぁ…」

 欠伸を噛み殺しながら体を起こすと、気温の低さもあって一気に頭が冴えてくる。

「朝…」

 まだ少しボーっとする頭と身体を起こす為に、大きく伸びをして立ち上がる。

 

 カシャアッ

 

 カーテンを一気に開け放つと、真っ白な光が部屋に飛び込んできた。

 いい加減、頭も完全に覚醒してきた。

――― なんか、夢見てた気がするんだけどなぁ…」

 そんな気はするのだが、ぜんぜん内容を思い出せない。

 どんな夢だったか気になるが…夢なんてそんなもんか。と結論付けて改めて時計を見る。

「うわっ、30分も早い…」

 見ればいつも起きる時間まで30分ほどあった。

 まぁ早く起きるに越したことはないので別にいいのだが――― 何か損した気分だ。

 

 今日は土曜日。つまり学校はある。だが、土曜日ゆえに午前までしかない。よって午後は自由。

 ――― なんて、中途半端な。

 こんな日は学校に行く気が失せる。午前で終わるくらいなら最初から休みにすればいいのに、なんて思う。

 むしろそうするべきだ。うん。

 

 取り敢えず、学校があるのなら仕方がない。着替えることにしよう。

 そう決めて、さっそく学校に行くための準備を始めた。

 

 

 

「おはようございます、祐一さん」

 準備を終え、降りてきてみると、そこにはいつものように朝食の用意をする秋子の姿があった。

「おはようございます。やっぱり朝早いですね」

「そんなことないですよ。それよりも祐一さんこそどうしました?」

 いつもと変わらぬ微笑みを浮かべたままの秋子。その表情を見ると、いつも心が和む。

「偶々ですよ。何か目が覚めたので」

「そうですか。でも早起きすることはいい事ですから」

 ふふっ、と笑い、再び朝食の準備を始める。

「祐一さん、コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」

 訊く秋子の笑顔につられ、

「あ、それじゃあコーヒーお願いします」

 祐一も釣られて笑顔で答えるのだった。

 

 

 早めに朝食もとり、時間を見るとまだまだいつもより早い時間だった。

 だが――― このままあの少女を放っておいたら、折角出来た余裕ある時間が無に帰す可能性がある。と言うか絶対にそうなる。

 そんなわけで、祐一は名雪の部屋の前に来ていた。

 

「おい名雪っ、起きろ!」

 ドンドンッ、と扉をたたくが、反応はなし。

 このままだとあの数多くの目覚ましが不協和音を唱え、近所迷惑になること請け合いだった。

「…入るぞ? 名雪」

 一応断りをいれてから部屋に入る。

 

 まず目に入るのはいつもの騒音を生み出す目覚ましの大群。

 鳴られると困るので、ひとつずつスイッチを切っていく。

 そして、その作業終了後…名雪を起こしにかかる。

 

「起きろ名雪!」

 ユサユサ、と身体を揺さぶる。

 だが、名雪はいっこうに起きる気配を見せない。

 だおーだおーなどと言いながらも眠っている。

「名雪! おい、起きろってッ!」

 ユサユサ、ユサユサ、とさらに揺さぶる。

 だがしかし、それでもやはり名雪は起きようとしない。

 揺らしていると、地震だおー、なんて微弱に反応しながらも、以前目を覚まさない。

 

 はぁ、と溜息を吐いて、時計を見る。

 ――― 結構時間が過ぎていた。

「だ、大丈夫だっ。まだ余裕はある!」

 

 意識を名雪を起こすことのみに集中させる。

 生半可な覚悟では起こすことなんて出来やしない。

 ――― 全力で、起こす!

「くぉぉらなゆきぃぃぃいいいッ起きろぉぉぉおおおおおおお!!」

 ユサユサ、なんてものではなく、ガクガクと言った方がしっくりきそうなほどの勢いで揺さぶる。

「うぅ…けろぴー……」

 反応あり!

 さらに揺さぶる。ガクガクと。

「うにゅうぅぅうぅぅうぅ」

「さっさと起きろぉおぉぉおおおおおおッ!!!」

 祐一が叫び、揺さぶり――― そして。

「うにゅ…?」

 とうとう双眸が開いた!

 

「あ、おはよう祐一ぃ」

 そんな、お気楽な名雪の朝の挨拶を聞いて。

「このやろ…」

 祐一は恨みがましく呟いていた。

 

 

 

 

 

 リスト 進む

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送