第2話   学 校 へ と 向 か う 道 で

 

 

 

 ゆっくり、ゆっくりと。

 街の所々に残る雪を眺めながら、普段ならありえないことだが、今日は歩いて登校している。

 これはやはり、早く起こしたことによる成果だろう。 

 

「やっぱり朝は歩いて登校したいよな」

 ふと呟いた祐一の言葉に、

「そうだねぇ〜」

 間延びした声で名雪が言葉を返した。

 

 と言うか、名雪がそう言うのは何か間違っている。

 歩いて登校したいなら、早く起きればいいだけのことなのだ。

 それなのに起きないために――― 毎日遅刻との争いになるのに。

 

――― なぁ名雪」

「なに?」

 名雪が小首を傾げて、祐一を見る。

「お前が早く起きれば問題ないんだぞ?」

「がんばるよっ」

 逃げるように走っていく名雪。多少は悪いと思っているようだ。

 …思っているだけで直らないから困っているのだが。

 

「名雪、前向いて走らないと――――

 祐一の方を見ながら走る名雪に注意を促そうとする祐一。だが、

 ドンッ

「きゃっ」「うぐぅっ」

「ぶつかるぞ…って遅かったか」

 物の見事に名雪は道路が交わるところでひとりの少女と衝突、目を回していた。

 

「大丈夫か名雪?」

 祐一が手を引いて名雪を起き上がらせる。

「う、うん。大丈夫みたい」

「そっか。それなら学校行こうか」

 祐一が再び学校の方に歩き出そうとして、

「待ってよ祐一くんっ」

 名雪とは違う声に呼び止められる。

 その声に祐一が振り返るが、その相手を認めると、再び転進して歩き出す。

「うぐぅ…待ってって言ってるのに…」

 

「…なぁ、あゆ。お前はどうしてここにいる?」

 やれやれ、と言った感じで祐一が話し掛けた。

「え? 学校だよ?」

「…まぁ、そうだな」

 何でこんなことを聞いたんだ?と疑問に思ったが、気にしないでおくことにした。

 

「おはよう、あゆちゃん」

「名雪さん、おはようっ」

 名雪とあゆは相変わらずで、普通に挨拶を交わしていた。

「祐一くんもおはようっ」

「おう」

 と返すと、名雪が声をかけてきた。

「ダメだよ祐一。朝はおはようございます、だよ」

「…あぁ――― おはよう、あゆ」

 

「おはよいうございますー、祐一さん」

「……おはよう」

 ふと、挨拶がかけられる。その声に反応して、振り返ってみると見知った顔があった。

「おはよう、佐祐理さん。それに舞も」

「………」

「ん? どうした舞?」

 なぜか無言で俯いてしまった舞を見て、祐一が声をかけた。

「舞、朝から祐一さんに会えて照れてるんですよ」

 ぽかっ

「痛いよー舞ー」

「佐祐理が変なこと言うから…」

「えー? 本当のことを言っただけだよー」

 ぽかっ

「佐祐理…」

 いつも通り、本当に仲のいいふたりだった。

 そのふたりのやり取りを見ていると、自然に笑みが零れる。

 

「あはは、佐祐理さんと舞って本当に仲いいよな」

「そうですよー、佐祐理と舞は親友なんですよー」

 さらりと、いたって自然とその言葉が出るのだから、このふたりは本当に仲がいいのだと分かる。

 

「あ、そう言えば祐一さん」

 突然、佐祐理が、何かを思い出したかのように口を開いた。

「学校、遅刻しますよ?」

 

 現在の時間、予鈴まで残り3分。

 学校までの距離、約500メートル。

 

「け、結局は走るのか!?」

「ふぁいとっ、だよ。祐一」

 のほほんと言う名雪。陸上部部長だからか、慌ても何もない。――― 秋子さんの娘だから、という考えもあるか。

「がんばってね、祐一くん」

――― お前もがんばれよ、あゆ」

「うんっ」

 元気に答え、走っていくあゆを見送ると、自分も全力で走り出す。

 

 

 朝の登校風景は、どうしてかいつも走ることになってしまうようだった。

 

 

 

 

 

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