第37話   自 分 の 中 に 棲 む モ ノ

 

 

 

 はじめは、あの時だった。

 

 学校でのあの事件。

 体育館での戦闘。

 死を目前にした自分。

 

 そして、能力の覚醒。

 

 

 思い返せばその時が一番はじめなのだ。

 

 あの、存在を知ったのは―――

 

 

 

 俺はあの時、死にたくない、と思った。

 生きたい、と。

 皆を守りたいと願った。

 

 そして、能力を求めたんだ。

 

 結果、俺も能力が使えるようになった。

 大気を操る…風の能力だ。

 

 それを得たときに、頭に響いた声がある。

 

―――吹き飛ばしてやれよ―――

 

 声が言った。

 

 どこか聞いたことのあるような、声。

 でも聞いたことのない、声。

 

 その時は別に気にも留めていなかった。

 

 だが、今思い返せばこの時がはじめだったのだ。

 

 

 

 2回目は夜の街。

 

 あの、悪魔の少年との時だ。

 

 あの時は確かな接触があった。

 ゴーレムに投げ飛ばされ、意識が朦朧としていた時のことだ。

 声は、はっきりと響いていた。

 

 楽になれよ

 

 そんな言葉。

 あの時は自分の内で湧き上がってくる感情を、衝動を押し留める事に必死だった。

 認めてはいけないのだと、頭のどこかで叫んでいた。

 認めた瞬間、自分が自分でなくなる。

 そんな確信があった。

 

 ヤツを、認識してはいけない。

 

 感情を認めるのはヤツを認識するのと同意。

 そして、認識した瞬間に自己が失われるという危機感。

 

 だが、ヤツは認めることを強要した。

 

 認め、自己を失わせることを望んだ。

 それは、何よりも大きく、何よりも魅力的な、絶対的な、干渉。

 

 気付けば、俺は俺でなくなっていた。

 

 周りにあるのは闇。

 肉体はもう俺のものではない。

 ただ自分は見ているだけ。

 まるでスクリーンを眺めるかのように、ヤツが悪魔の少年―――リヴィルを消す瞬間を見ているしかなかった。

 

 だが、だからといってヤツに憎しみに近い感情が生まれたわけではない。

 むしろ、リヴィルを消した瞬間に生まれた感情は―――

 

 

 

 

 

 思い返してみれば、あの時俺が必死になって隠そうとしていた感情は、憎悪だったのではないか。

 

 他者を憎み、悪と認識する。

 

 そんな憎悪を、必死に押し留めようとしていた。

 

 

 

 だが。

 

 俺はそれを認めてしまったのだ。

 

 最深層の意識が。

 

 憎しみを。

 

 憎悪を。

 

 

 鍵は外れ、扉は開く。

 

 現れたのは堕天の者。

 

 深紅の翼を持つ、堕天使。

 

 

 

 

 そして、今。

 

 真紅の翼を具現させた北川を前に。

 

 俺はまた、身体を乗っ取られようとしている。

 

 

 精神を縛り付けられ、抵抗することも許さず。

 

 

 

 俺は、ヤツに身体の支配権を奪われたのだ。

 

 

 

 

 

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