願い、求めよ。
激しさを増す戦いの中、ただ、求めよ。
己の心を、想いを、力へ変えよ。
求めよ。
願えよ。
誓えよ。
闇を祓う光を詠え。
さすれば翼は解き放たれる―――――
□ 第 6 3 話 激 化 す る 戦 い の 日 々
気付けば、もうどうしようもないくらいに進んでいた。
どうして。
俺達はこんな戦いの真っ只中にいるのだろうか。
そんなこと。
あぁ、そんなこと分かっている。
最初から、俺は中心にいたんだ。
学校での一件……あれだって、本当は最初じゃない。
俺にとっての
最初 はもっと―――そう、自分でも分からないくらい昔。知識として、それも朧気にしか分からないけど……。
それでも言い切れる。
俺は、俺の知らない内にも、中心にいたということだけは。
「あぁ―――」
深い夜。
何となく目が冴えて眠れない夜。
窓を開けて、ただぼんやりと月を眺める。
―――蒼い。
蒼い月の光は、優しく、そして冷たく。
心を浮き彫りにさせていって、やわらかく抱きしめる。
「―――月が、綺麗だ」
呟きの言葉は闇に溶けて、夜は変わらずの静寂を纏う。
月の光には魔力が宿る、なんて言うけど、こんなにも落ち着いて物事を考えられるのはその影響なんだろうか。
はぁ、と息を吐き出す。
クリアになった思考で考えられることは、今の、自分の置かれている状況。
取り敢えず体調はほぼ全快。まだ節々に痛みが走るが、許容範囲だ。
能力のエネルギーも問題なし。
アイツ との同調も恐らく問題なし。( 悪魔側からの襲撃は今のところなし。だけど油断は禁物。こればかりはいつ、というのを断言出来ない。
そして―――
「舞…真琴……」
ぐっと握った手に力が篭る。
ふたりは今病院だ。かなりの重傷で、生死を彷徨うというのも強ち間違いでもない。
絶対安静にしていれば問題ないとの話だが、それでもやはり不安は拭えない。
そして何よりも―――悔しい。
何も出来なかった自分が、こんなにも憎らしいだなんて。
「あぁもう、やめやめっ」
頭を振って思考を遮断する。これ以上考えたらきっと悪いことしか浮かばない。
だから思考を切って、今は自分のことを考えよう。
―――と、そんな時に。
「祐一、まだ起きてるの?」
部屋の扉を開けながら、久しぶりに会った顔がそう言った。
「……母さんこそ、もう2時だぞ。なんで起きてるんだ?」
「まぁ、なんとなく、かな? 何か眠れなくて」
少し笑って、母さんは横まで歩いてきて、そのまま窓から月を眺めた。さっきまでの、俺のように。
「……綺麗な月ね」
「……そうだな」
それだけを交わして、言葉がなくなる。
シン、と静まる夜の中。共感する空気はどこか暖かかった。
「母さんも」
「うん?」
「―――母さんも、能力者だったんだな」
その言葉に何を感じ取ったのか。
母さんはふぅ、と溜息を吐いてから瞳を閉じ、語るように言葉を紡いだ。
「隠す気は―――あったわね。正直、祐一を
こっちの世界 に巻き込みたくはなかったし」( それは本心。痛切な、母親としての、想い。
「
辛 いでしょう? 傷つけて、傷つけられて、また傷つけて……。そんな世界に、大事な子供を放り込みたくない―――」( だからよ、と呟かれた言葉。
「そっか。……ありがとな、母さん」
「祐一がそんなあっさり礼を言うなんてね」
「いいだろ、たまには」
言って、気恥ずかしくなって空の月に視線を向けた。
蒼い。
不変の闇の中、浮かぶ月はまるで穴。真円に刳り貫かれた画用紙の穴。
それはどこか幻想的だった。
月光に浮かび上がる景色は、普段とは違う色を纏う。
「祐一」
そんな、呼ばれた名前に顔を向けた。
「決着は―――ついたのよね?」
決着。それは、あの堕天使とのことを指すのだろう。
「―――あぁ」
その言葉に満足したのか、母さんは話を続けようとはしなかった。
だから、代わりに自分から話す。
「アイツとは、真正面からやり合ったから。だからアイツの想いも願いも……全部分かった」
「―――」
「だから、俺はアイツを受け入れる。受け入れられる。―――最後まで貫くさ、アイツとの誓いを」
それだけ言って。
母さんは本当に満足したような笑みを浮かべた。
「安心した。祐一、本当に強くなったわね」
「そうかな? 俺は弱いよ、きっと」
「ううん。強い。そんなに強く自分を貫こうなんて思えるのが、強いって証拠」
そんなにハッキリ言われると、照れる。
自分で自覚がないだけに、すごく。
「祐一、これからの戦いはさらに激しさを増すわ」
先程までとは打って変わった真剣な表情で正面から見据えて、母さんは言った。
「あのふたりみたいなコトが、これからは更に増えるかもしれない。もしかしたらそれ以上のことが起きることだって有り得る……」
その言葉に、ただ耳を傾ける。
「だから祐一。祐一は祐一に出来ることを、祐一にしか出来ないことをやりなさい。後悔なんてしないように。自分がやったことが間違いだなんて思わないように」
「―――あぁ。分かった」
力強く頷く。
それを見て母さんは納得したのか、よし、なんて言った。
「それじゃ、私は寝るわね。祐一、あまり夜更かしはしない方がいいわよ」
「はいよ。俺もそろそろ寝るから」
「そっ。じゃ、おやすみ」
手をひらひらと振りながら、母さんは扉を開けた。
それを見送りつつ、
「おやすみ」
一言だけの、夜の挨拶を送った。
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