Panic Party 第八回 嫌な予感はしてたんだが…





 遠野志貴、アルクェイド・ブリュンスタッドの両人はVLSの中、そろって絶句していた。

 演出上、ヘッドギアを付けるまで会場の照明は消されているため、対戦相手とはVLSの中で初めて対面することになる。

 そして、王者である志貴、アルクェイドに挑戦する人物は二人の顔見知りであった。

「よっ、遠野。奇遇だな」

 やたらと陽気なその男…乾有彦は志貴の肩をぽんぽんと叩きながら言った。

「どうしてこんなところに居るんだ」

 志貴が心底うんざりしたように言った。ちなみにこれは有彦の後ろに居る人物に対しての問いかけでもある。

「ずいぶんご無沙汰ね、シエル。一体これは何の冗談かしら」

 敵意丸出しで言うアルクェイド。

「それはこちらのセリフです。どうして貴女が遠野君と一緒に居るんですか。まぁ、大体予想は付きますけど」

 同じく敵意を隠そうともしないシエル。二人の間には比喩でもなんでもなく物理的に火花が散っている。最近の技術革新はすごいなぁ、と妙なところで感心する志貴だった。

「おい、遠野。あの二人って知り合いなのか?」

「あぁ、結構古い付き合いらしい…って、おまえアルクェイドのこと知ってたっけ?」

「ああ、一応な」

 どうだまいったかとばかりに胸を張って言う有彦。

 志貴は今では鮮明に思い出せる『昨日』のことを思い出して納得した。起こり得る未来の可能性と言うのは案外馬鹿にできないものらしい。遠野家では落とし穴に気を付けようと心に誓う志貴だった。

「どうして先輩がこんなところに居るんですか?」

 放っておくといつまでもにらみ合っていそうな二人の均衡状態を打破するため、志貴は問いかけた。

「…まぁ、話すと長いんですが」

 アルクェイドから視線をそらし、シエルは志貴へと向き直った。

「時間は十分にあるから大丈夫です」

 今会場のスクリーンには『スタンバイ』と表示されている以外、何も写っていないはずだった。戦う前に親睦を深めてもらおうと言う意図なのか、対戦の直前までは何も表示されないようになっている。プライバシーのため、管理者側でさえ映像も音声も受信していない。

「…それじゃあ話しますけど。その前にアルクェイドを何とかしてくれませんか。今にも襲いかかって来そうで嫌なんですけど」

 未だにシエルを睨みつづけるアルクェイド。

「アルクェイド」

 志貴が呼びかけると、アルクェイドは不満そうな顔をした後、

「仕方ないわね」

 視線をそらした。志貴がどうぞ、と合図し、シエルは頷いて話し始める。

「実は、私がここに居るのは秋葉さんに依頼されたからなんです」

 うげ、と呟く人間がひとり、言うまでも無く遠野志貴だった。

「もういいです。分かりましたから」

 志貴はどこか悟りきったような表情でそう言った。

 大方、翡翠が起こしに来た時点で俺が屋敷に居ないことが発覚し、感覚から既に屋敷には居ないと踏んでいた秋葉はとりあえず念のため翡翠と琥珀に屋敷中を探させて、やはり居ないと分かると、朝から兄さんを連れ出すようなあーぱーはアルクェイドしか居ないなどと正確極まりない判断をして、次いで自分の手には負えないことを理解すると、相性悪いにも関わらず断腸の思いでシエルに協力を求めて、簡単に(恐らくはカレーパンで)買収されたシエルは消えた遠野志貴のわずかな痕跡をたどりながらここへと辿り着き、アルクェイドと共にゲームに参加しているということを聞き付けると、自分も参加しようと決意し、そこいらに居た参加者の一人から招待状とゲームの参加券を奪取し、招待状に目を通して、二人で参加しなければならないことを知り、その辺をうろついていた有彦を誘って、ゲームに参加、そして今ここに至る…というところだろうと全く事実と寸分の狂いも無く事の顛末を想像する遠野志貴だった。

「そうですか。話が早くて助かります。さぁ、帰りましょう遠野君。朝から人を拉致するような非常識吸血鬼は放って置いて、今すぐにでも」

『うん、ボク帰るよ♪』

 などと言いつつシエルの元に駆け出したい衝動を押さえる志貴。そんなことをすれば後で何をされるか分かったもんじゃない。

「そんなのだめに決まってるじゃない。わたし達はゲーム中なの。ゲームオーバーにならない限り帰る事は出来ないわ。そんなに帰りたいならひとりで帰ればいいじゃない」

 当然のように抗議するアルクェイド。

「ふっ、もちろんそう言うと思っていました。だから今日は…」

 シエルは不敵に笑い、その瞬間着ていた服が戦闘用の法衣に変わる。

「完全武装です」

 有彦もにやりと笑って言う。

「悪いな、遠野。シエル先輩のためにも、負けてもらうぜ」

 自身満々な両者にアルクェイドは鼻を鳴らして、

「わたしに勝てるとでも思ってるの? シエル」

「ええ、もちろんです。今回は秘策を用意しましたから。乾君。使い方は分かりますね?」

「もちろん。ところで遠野、この前した質問の答え、まだ変わってないか?」

 ヘッドギアが戦闘思考を読み取ったのか、視界に大きく表示される『Ready?』の文字。

「ここでそれを訊くか…ひょっとしなくてもノリノリだろ、おまえ」

 志貴はナイフを取り出した。

「もちろん。こんな機会めったにないからな。それで…」

「あぁ、変わってないよ。そう言うおまえはどうなんだ?」

 ナイフを構え、しかしメガネは外さない。ゲームとは言え、身近な人間の死を見ることはしたくなかった。

「どうやら俺も変わってないみたいだ。なんだ、どちらも準備だけはできているって事か」

 有彦が鼻を鳴らし、それを受けて、志貴がそうだなと呟くのと『Fight!!』が表示されるのが同時、シエルが法衣から黒鍵を取り出し、有彦は叫ぶ。

「いくぜ、遠野っ!!」



  


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