Panic Party 第十回 Brunestud





 シエルは空中で体勢を整えると、そのまま黒鍵を放った。
 
 追撃をかけようと突進していたアルクェイドはそれを避けられず、まともに食らった。

 鉄甲作用によってアルクェイドの体が吹っ飛ばされ、地面を転がった。激痛に顔を歪めながらも腹に刺さった黒鍵を引き抜く。白い服が赤くにじんだ。

 いつものアルクェイドならこの程度の攻撃を食らったところで血すら出ない。というか食らいはしなかっただろう。やはり、力が極端に落ちているらしい。

 シエルはゆっくりと歩いてきた。

「世界の延長上に立つ真祖は世界なくして本来の力を発揮できない。さすがの貴女でもここではそのざまですか。本来なら参加者のイメージを読み取って強化する世界だというのに、それが貴女には枷になっている。皮肉なものですね」

 アルクェイドは起き上がってシエルを睨みつけた。

「力が落ちているのはお互い様でしょう、シエル。ロアが滅びた今、貴女の体は不死身ではないし、肉体のポテンシャルも落ちてきている。ロアの力を行使することもできない。その程度の実力でまだ埋葬機関第七位に居座ろうなんて、あつかましいにも程があるわよ」

「貴女が教会のことを口にしないで下さい。それに、そもそも、わたしがロアに見捨てられたにも関わらず死ななかったのはわたしの体が優れていたからです。ロアの力が引き出せなくなったからといって、どうということはない」

 言いながらシエルは黒鍵を引き抜き、自然な動作で放った。一本、二本、三本、体をひねってさらに一本。

 アルクェイドは一本目を躱わし、二本目、三本目を爪で弾いて、四本目も爪で叩き落そうとしたところで、シエルが目前に迫っていた。

「!」

 それはまるで疾風。四本目を放った直後、シエルは体を前に傾け、異様に低い重心でアルクェイドに肉薄していた。

 伸び上がるような蹴りがアルクェイドをとらえた。アルクェイドは吹っ飛ばされ、受身も取れずに地面に叩きつけられた。シエルに気を取られていたため、最後の黒鍵も避けられず、肩に突き刺さっている。血を流しすぎたせいか、視界が暗転する。それを無視して立ち上がろうとしたところで黒鍵を喉元に付きつけられた。

 アルクェイドは歯噛みした。全く力が入らない。黒鍵に何かの魔術でも施してあるのか、傷も全然塞がらなかった。目の前の黒鍵もどこかぼやけて見える。それほどまでに力が落ちている。

 そもそも、千鶴と闘ったときから、全然力が出なかったのだ。敢えて余裕な態度をしていたのも、首を絞めて降参させたのも、そのためだった。千鶴に『相手は自分より圧倒的に強い』と思い込ませることが重要だったのだ。実は首を絞めるときに大して力は込めていない。

 しかし、目の前の敵は今までに何度も闘ってきた相手だ。そんな小細工は全く通用しないことは初めから分かっていた。

「降参してください。力が落ち、空想具現化も封じられた貴女に勝ち目はない」

 シエルは言いながら力を少し込めた。

 黒鍵が喉の皮膚を貫き、血が滴る。痛みにこらえてアルクェイドは言う。

「断ったら、どうする気?」

「さっさと止めをさして遠野君を迎え撃ちます。ついさっき、乾君の断末魔が聞こえましたから…。三秒だけ待ちます。降参か、死か選んで下さい」

 最大の親切心からそう言った。

 アルクェイドは顔を上げてシエルを見る。そして、にいっと笑った。

「どちらもゴメンよ」

 瞬間。アルクェイドを中心に何かがぶわっと広がった。それはとっさに後方に跳んだシエルも一瞬で包み込み、当たりの空間に侵食する。

「これは…」

 シエルが呆然と呟いた。一瞬は空想具現化かと思ったが、そんなわけはない。世界から隔離された真祖がそれを使えるはずがないからだ。それではこれはなんなのか。唐突に思い当たった。

「固有結界!?」

 そう、それは空想具現化とはわずかに異なった力。リアリティー・マーブルと呼ばれるその能力は、使用者の心象世界を形にし、現実に侵食させるというものである。空想具現化とは違ってその形を自由に決定できない。固有結界の形はいつでも使用者のただひとつの内面となる。しかし、

「馬鹿ですか貴女は!? そんな状態で固有結界なんて、自殺行為にも程があります!」

 固有結界を作り、維持するには膨大なエネルギーを必要とする。かなり上級の死徒でさえ、数分程度しか維持できないであろう。

「馬鹿は貴女よ、シエル。確かに今のわたしでは結界は三十秒程度しか維持できない。でも…」

 瞬間、空間が歪み、捻じ曲げられ、場所が変わる。闘場から、西洋風の城の内部へと。

 ブリュンスタッドを冠する者、アルクェイドの固有結界の形は彼女自身が縛られている千年城ブリュンスタッドだった。

「三十秒もいらないみたい」

 驚きに目を見張るシエルを、一対の金色の瞳が睨みつけた。









  


感想送信用フォーム> 気軽にどうぞ。
おなまえ    めーる   ほむぺ 
メッセージ
 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送