Panic Party  第二十五回  潜入部隊Bチーム




 雨はとうとう本降りになってきて、視界すら利かない状況になってきている。

 そんな中、裏山を歩く者が数人居た。

「うぅ…冷たいよぉ…」

 そのうちまず一人目、川名みさき。

 目が見えないにも関わらず、口調とは裏腹に、雨の山道をすたすたと歩いていた。

「大丈夫ですか? 先輩」

 続いて里村茜。

 雨でまとわりつく髪を時々払いのけながらみさきの後に続く。

「うん、わたしは大丈夫だよ。澪ちゃんは?」

「………」

 うんっ。

 だいじょうぶなの、とばかりに力強く頷いて見せたのは三人目の上月澪。

 雨のため、スケッチブックは使えないので背負っている通学用鞄に入れてある。

「…にしても、よくこんな道を知ってましたね?」

 茜が感心したように言った。

「うん、もう小さい頃からこの学校にに来ていたからね。こう言う裏道とかには詳しいんだ」

 みさきは笑顔で答えて、

「それにしても、詩子ちゃん、連れてこなくて良かったのかな?」

「そうですね。でも人数が多すぎると見つかりやすくなりますから」

「うーん、でもちょっと可哀想な気がするな。ひとりだけのけ者みたいで…」

 みさきは少しだけ申し訳なさそうな顔で言った。

「そうですけど…」

 別に一同は詩子だけをのけ者にしたわけじゃない。

 彼女達は浩平にああ言われた後、一端は素直に家に帰った。

 しかし、せっかくの夏休み初日だと言うのに、なんとなく落ち着かない気分になった。

 何をしようとしてもてんではかどらず、気付いたらいつも同じ事ばかり考えてしまう。

 浩平は、瑞佳は大丈夫だろうか、と。

 そして、なんとなく商店街に足を向けて、自分の似たような人間をふたり見つけた、とそれだけのことだった。

 そして、せっかく集まったんだから、何か自分たちに出来ることを考えようとして、この進入部隊の結成と相成ったわけだ。

「雨が…強いね」

 しばらく歩いて、みさきがぽつりと言った。

「そうですね。多少の音なら消してくれます」

「うん。でも、雨はちょっと嫌いだな」

 茜は少し考えて、

「音が…聞こえないからですか?」

 茜は、昨晩テレビでやっていた、盲目者についての特集を思い出して言った。

 盲目者が物を知覚でき、転ぶことなくまっすぐ歩けるのは、聴覚に由来することが多いのだそうだ。

 彼、又は彼女は自分の足音が、何かの物に当たって反響してくる音を正確に聞き分け、その物との距離や大きさ、形などを知るという。

 だから、今日みたいな天気の日にはみさきは行動しにくいはずだった。

「ううん。夕焼けがね、見えないからだよ」

「夕焼け…」

 茜は呟いてどんよりとした空を仰いだ。

 現在、時刻は三時を少し過ぎたところだ。夕焼けはまだ見えないが、分厚い雲の向こうには夏特有の貫けるような青い空が広がっているはずだった。

 と、茜は気付いて、みさきを見た。

「? どうしたの?」

 不思議そうに視線を返してくるみさき。

 しかし不思議に思っているのはむしろ茜だった。

(どうして分かるのかしら?)

 茜はみさきの方を見ただけだ。

 別に声をかけたわけでもないし、音を立ててもいない。

 仮に自覚できないほど小さな音を立てたとしても、この大雨がその音を消し去っているはずだ。

(そういえば…)

 みさきはこの中では自分しか知らない裏道を案内するために先導、、している。

 大雨にも関わらず、しっかりとした足取りで。

 ずっと盲目だったら、雨なんて関係なく必要な音だけをを拾えるようになるんだろうか。

 茜はそう考えて、

「みさき先輩」

「なに?」

 みさきの前で指を三本立てて、

「指何本ですか?」

 訊いてみた。

「え? わたしは五本だけど。あ、両手で十本かな。足も合わせると…」

「…そうじゃなくて、今私が立ててる指は何本ですか?」

「三本だよ」

 即答して見せた。

「………」

 澪はその様子をぽかんとして見ている。

「…そうですか」

「え、え、何が? どうしたの?」

「いえ、何でもないです」

 茜はそう言って、とりあえず会話を打ち切った。

 



都合良く、、、、、フェンスも破れてることだし、ここから入れそうだね」

「見張りは…居ないみたいですね」

 この雨が幸いしたのか、外に黒服の姿はなかった。

「………」

 うん、

 澪もきょろきょろと視線をさ迷わせて、だいじょうぶ、とばかりに頷いた。

「ここからは絶対に音を立てないようにしてください。もし見つかったら私達だけじゃなく、浩平達や瑞佳さんまで危険にさらすことになりますから」

「うん、分かってるよ」

 うんっ。

「それじゃあ、とりあえずは私が先導します。先輩は何か不信な音が聞こえたら、すぐに言ってください」

「うん、分かった。とりあえず澪ちゃんはわたしの後ろに付いてきてね」

 うんっ。

 茜は澪が頷くのを確認すると、

「行きます」

 そう言って、フェンスをくぐった。

(たぶん、玄関は見張られてると思うので、渡り廊下を目指します)

(分かったよ)

 うん、

 茜は油断なく辺りに視線を向けながら移動していく。すぐその後に二人も続いた。

(外に見張りは居ないみたいですね)

(そうみたいだね。中には…けっこういるみたいだけど)

 とりあえず外に見張りがいないのはありがたかった。とにかく中に入ってしまえば事も起こしやすい。

(瑞佳さんがどこにいるか、心当たりはありませんか?)

 この学校を隅から隅まで知っているみさきなら、どこか心当たりがあるかもしれない。

(うーん、ごめん、ちょっと分からないよ)

 みさきも知らないとなると、しらみつぶしに見ていくしかないようだった。

(渡り廊下に…ひとは居ないみたいですね)

 渡り廊下から死角になっている角から少しだけ様子を伺って、茜は呟いた。

(待って…)

 渡り廊下に向かおうとする茜をみさきが制止した。

(誰か来るよ)

 茜は慌てて角から顔を引っ込めた。

(…敵ですか?)

(…よく分からない。でも、まっすぐこっちに向かってくる)

 みさきの言葉に、茜と澪は身を硬くした。

(浩平達かも知れません。とにかく、確認してみます)

 茜はもう一度角から覗き込んで、

(…誰も、居ませんよ?)

 確かに、少なくとも目の届く範囲には誰も居なかった。

(ううん)

 みさきは首を振った。

いるよ、、、。もう、すぐ近くに)

 近く。

 その言葉に茜は全身が総毛立つのを感じた。

 誰も居ない。

 でも近くにいる。

 誰だろう。

 居るのならどうして見えないんだろう。

 誰?

 誰なの?



 ぽんっと、

 誰かがが、

 茜の肩を叩いた。








  


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