Panic Party  第三十六回  水瀬家のひとびと

 

 

 

「ここが…水瀬家か」

 とりあえず表札をもう一度確認する。全く別の家だというオチはこの状況ではあまり面白くない。

「にしても…」

 後ろを振り返る。そこにはそうそうたる顔ぶれがそろっていた。

 俺の隣にいる長森を始め、七瀬にみさき先輩に澪。こんなに大勢で押しかけたら迷惑にならないだろうか。

「…あれ?」

 当然のことだが俺は気付いた。

「柚木と住井は?」

 やけに静かだと思ったらふたりともいつの間にやら居なくなっている。駅に付いたときにはあんなはしゃいでいたのに。

「…そう言えば居ないわね」

 七瀬も不思議そうに辺りを見渡す。当然その辺にふたりの姿はない。

「住井君は情報収集っ! とか言って商店街の方に行っちゃったよ。詩子ちゃんも無理矢理連れて」

 先輩が道の先指差しながら答える。そっちの方に商店街があると言うことなんだろう。

『あのね』

 澪がスケッチブックにペンを走らせて俺達に示す。最近思うんだが、『あのね』に一ページも使ったらもったいなくないだろうか。

『後で行くの』

 澪も後で商店街に行くらしい。

「わたしも、一緒に行くよ。澪ちゃんだけだと心配だからね」

 先輩は笑顔で言うが、俺に言わせればこの二人で行かせることがかなり心配だ。俺も付いていくことにしよう。

「とりあえず、呼び鈴を押すぞ。何が出てきても驚くなよ」

「呼び鈴押すだけでそんな大げさな。さっさと押しちゃいなさいよ」

 七瀬にせかされて呼び鈴を押す。ぴんぽんと軽快な音。

 続いて『はいはい〜』と優しげな声。

 玄関が開き、一人の温和な感じの女性が姿を見せる。

 俺は会釈して前に出た。この人が秋子さんだろうか。

「あ、ひょっとして浩平君と瑞佳さんですか?」

 女性が言う。

「はい、そうです。ちょっと余分なのも付いてきてますけど」

 言いながら近くにいた七瀬を前に押し出す。七瀬は「ちょ、ちょっと折原」などと声をあげたが、女性と目があうと、乙女モード全開で微笑んだ。

「こんにちは。折原君のクラスメイトの七瀬留美と申します」

 本性を知ってる俺としては気持ち悪いことこの上ないのだが、敢えて突っ込まないでおこう。下手なことを言うと後が怖い。

「これはどうも、私は水瀬秋子と言います」

 猫被り全開の七瀬を遥かに上回る上品さで女性…秋子さんは微笑んだ。七瀬がうっとうなる。

「やばいわ。この人本物だ…」

 俺も正直驚いた。こんないかにも『良家の奥様』的な人が現代に存在するとは思っていなかったからだ。

「わたしは川名みさきです」

『上月澪なの』

「えっと、長森瑞佳です。えっと、こんなに大勢でお邪魔してもいいんですか?」

「良いのよ。ちょっと窮屈かも知れないけどゆっくりしていってくださいね。それと今は学校に行ってて居ないんだけど娘とも仲良くしてやってくれると嬉しいわ」

「へぇ、娘さんがいらっしゃるんですか。おいくつですか?」

「17よ」

『なっ!』

 俺と長森と七瀬はそろって絶句した。

 どう見ても秋子さんは二十台にしか見えない。その娘が17と言うのはとても信じられない話だった。

「あの、失礼ですけど…」

「はい?」

「………………………………いや、なんでもないです」

 年を訊こうと思ったが止めておいた。何故か訊いてはいけない気がする。

「それじゃあ、狭い家ですけど案内します」

 和やかに笑って、秋子さんは俺達を家の中に導いた。

 

 

 

 全室を案内されてまず広い家だと思った。

 リビングも俺の(というか由起子さんの)家よりも相当な広さがあるし、二階には四部屋もある。

 案内された後に再び俺達はリビングに通された。

「それじゃあ、これからはよろしくお願いしますね。みなさん。何か訊きたいことはありますか?」

 はいっとばかりに手を挙げる七瀬。

「はい、七瀬さん」

「あの、この子は誰ですか?」

 七瀬は、キッチンで美味しそうに肉まんのようなものを食べている女の子を指差して言った。

 それはさっきから俺も気になってた。

「お子さんですか?」

 長森が訊いて、秋子さんが笑顔で答える。

「家族よ」

 子供ではないらしい。というかどう見ても17には見えないし。

「真琴、挨拶しなさい」

「ふぁう?」

 肉まんを口に突っ込んだままこっちに顔を向ける女の子。よほど食べるのに夢中だったのか、俺達に始めて気付いたようだった。

 とりあえず肉まんを皿に置いて、てててと小走りに秋子さんのところまでかけてきた。そして俺の顔を見て言う。

「誰?」

 それは俺が聞きたい。と言うわけで訊いてみた

「人にモノを尋ねるときはまず自分から名乗るべきじゃないのか?」

「あぅ、このひと祐一と同じような感じがするよぅ」

 何か、失礼なことを言われたような気がする。

「真琴、ご挨拶」

「…わかったわよ」 

 秋子さんに言われしぶしぶと自己紹介を始める女の子。

「真琴は沢渡真琴って言うの」

「そうか。俺は今日からこの家に厄介になる折原浩平と言う者だ。以後よしなに」

 笑顔で手を差し出してみる。ぷいっとそっぽを向かれた。何故かいきなり嫌われたらしい。

「えっと、わたしは長森瑞佳っていうの。よろしくね。真琴ちゃん」

「あぅ、よ、よろしく」

 長森に対してはちゃんと返事を返す真琴。なんだこの差は…

「七瀬留美よ。よろしくね」

「川名みさきだよ」

『上月澪なの』←使いまわし

「よ、よろしく」

 連中のキャラの強さに圧倒されたのか、微妙に戸惑っている真琴。その姿は年相応で可愛らしくもある。

「よろしくな、真琴」

 ぷいっ。やっぱり可愛くねぇ。

 

 

 

 とりあえず、一通り挨拶が終った後、各自の部屋が割り当てられることになった。とりあえず後から二人ほど来るであろう事を秋子さんに言うと、笑顔で了承してくれた。器の大きいひとだ。

 俺と住井は相沢の部屋に割り当てられた。

 ちなみに先輩と澪は娘さんの部屋に、長森と七瀬は真琴の部屋に、柚木は秋子さんの部屋にそれぞれ割り当てられることになった。

 真琴は不満そうにしていたが秋子さんに笑顔で「いいわね?」と訊かれると、しぶしぶ承諾した。たぶん秋子さんには逆らえない何かがあるんだろう。

 夜は各自布団を敷いて寝ると言うことらしい。一体この家には何枚布団があるんだか…

 ちなみに相沢は今出かけているとのことだ。というよりも秋子さんの話では最近まで学校を休学して、日本全国をまわっていたという話だ。数日前にようやく帰ってきたが、またいつ出ていくのかも分からないらしい。

 全く相沢のやつ、なに考えているんだか。

 ベッドに寝転がって何と無しに思考をめぐらせる。住井と柚木は未だに返って来ていないので、今は部屋に俺ひとりだ。

 広くて快適ではあるが、やっぱり物寂しくはある。

「やっぱり俺も商店街行こうかねぇ」

 何となく呟いて、いい考えだと思った。

 住井や柚木も見つかるかも知れないし、何よりここは全く知らない土地だ。何らかの面白いものが見つかるかも知れない。

「よし、そうするか」

 俺は揚々とベッドから立ち上がり、

 こんこんっ

 突然のノックの音を聞いて驚いた。

「は、はい。どうぞ」

 がちゃりとドアが開いて、姿を見せたのは秋子さんだった。

「ちょっと、よろしいですか?」

「はい、何です?」

「お話があります。私の部屋まで来てもらえますか」

 ひどく真剣な顔。一体何の話だろう。

「はい。いいですよ」

 別に深くも考えずに俺は秋子さんの後に続いた。

 

 

 

  


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