第11話
決意を決めて、後はただぶつけるのみ
「射撃は苦手なんだがな……ッ!」
ガガガガッッと轟音を奏でながらアルトアイゼンの左腕――― 三連マシンキャノンが猛然と咆え、濁流のように撃ち出される弾丸は空を切り裂き目標を捕らえんと走った。
その内の数発が空中を滑るように翔ける敵機――― リオンの一体に直撃したのか、派手な轟音を立てる。
そしてその射撃を受けたリオンは体勢を崩し、空中から錐揉みしながら落ちてきた。
――― そこを、
「取った……ッ!」
フルブーストで跳び上がったアルトアイゼンの角――― ヒートホーンが袈裟に熱断した。
そのまま空中で爆発する機体に目もくれず、キョウスケはアルトアイゼンを着地させると同時にスラスタを開き前へと疾走する。
そこに襲い掛かる銃弾の雨。上空と前方から飛来した弾丸が機体の表面装甲を叩き、派手な音を立てる。
『援護するわよぉ!』
コミュニケからの声に刹那遅れて空中をビームが奔った。そのビームは空中からアルトアイゼンを狙っていたリオンを呑み込み、壮絶な爆音を響かせた。
『んふふ〜、蝶のように舞い、蜂のように刺す。……って感じ?』
「集中しろ、エクセレン」
コミュニケに告げ、前方の機体へと更に接近する。
マシンガンがばら撒かれるがそんなものでは止めることなど出来はしない。機体を叩く銃撃の音がコックピット内に響き渡るがそれすらも一切無視し、スロットルレバーを限界まで押し込んだままに。
銃弾に怯むことなく、一気に接近し――― 、
「どんな装甲だろうと――― 」
右腕の杭打ち機――― リボルビング・ステークを叩き込む―――!
「――― 撃ち貫くのみ!」
ガゥンという鈍い衝撃。突き刺さったステークに薬莢内の炸薬による破壊力を叩き込む。
その一撃でゲシュペンストMk−UMは行動不能に陥った。
それを捨てると同時にサイドスラスタを吹かし、一気に真横へとスライドする。
その瞬間、もといた場所に数発のレールガンが突き刺さった。
空中からの射撃。
空中にいるのはリオンだ。その数、10機は超える。
また地上にはゲシュペンストが数体、マシンガンを手に距離を詰めてきていた。
これだけの見知った機体に襲われながら、それでもそれらの機体の識別信号は連邦のものではない。
PTを開発し、運用しているのは連邦軍だけだと言ってもいい。
AMはどうだか知らないが、DCなき今、AMを運用しているのも連邦だけだろう。
「一体どうなっている――― 」
思考するが明確な答えなど得ることは出来ない。
未識別のPTとAM。それが意味するのは一体なんだと言うのか。
今の状況ではそれを判断する要因が少なすぎた。
『ッ!? キョウスケ!』
コックピット内に響いたエクセレンの声と、けたたましい警告音に意識が戦闘のみに引き戻される。
だが、それでは既に遅かった。
鈍く、重い、激しい衝撃。
「ぐっ…!」
機体が弾き飛ばされた。
まるで横殴りのような衝撃。マシンガンでは表面装甲に傷を付ける程度だと言うのに、今の砲撃は表面装甲を軽く突破して見せた。
――― そう、まったく予期していなかった。
近いリオンやゲシュペンストのみに気を取られ、遠方――― こちらの射程外からの砲撃があるなどと予期していなかったのだ。
「今の砲撃……バレリオンか」
機体を起き上がらせながら経験をもとに敵機を予想する。
――― DCAM−005 バレリオン
DCが量産していた砲撃戦用重
AM 。長距離射程のビックヘッド・レールガンを持ち、装甲も厚い。主に対艦戦や拠点攻撃・防衛戦などに投入される。
テスラ・ドライブも組み込まれている為に、超低空の飛行を可能としている。
「エクセレン、狙えるか?」
アルトアイゼンでは近づくことが難しい敵だ。近づけば近づくほど命中されやすく、そしてそう何発も喰えるほどの装甲も持ち合わせていない。
『――― ちょい無理ね』
ち、と舌打ちする。ヴァイスリッターの射撃能力を持ってしても、ここから狙い撃つことは無理だと言う。
単機でヴァイスリッターが堕としに行くことは可能だろう。だが、それは同時に今空中にいる敵機の相手をする機体がアルトアイゼン一機になると言うことだ。
如何にアルトアイゼンの装甲が堅牢だとしても、複数の敵から集中砲火を受ければそれすらもいつまでも持ちはしまい。
バゥンッ
すぐ傍に再び着弾。遠方からの砲撃は簡単に無視できるようなものではない。
一機とは言え、凄まじい脅威だ。
「――― 仕方ない。エクセレン、行ってくれ」
言いながら機体を地上を滑走するゲシュペンストへと向けた。
『ちょっ、キョウスケ!?』
エクセレンの驚いた声が聞こえたが、そんなものに構ってはいられない。
これは一刻を争う。時間が経過すれば経過するほどに被害は増えるだろう。だから一刻も早く、堕とす必要がある。
「ここは俺が抑える。……頼むぞ」
「そんなこと言っても、アルトだけじゃ――― 」
そんな当然とも取れるエクセレンの言葉に、
「ふ…。分の悪い賭けは嫌いじゃない」
一言告げて、スロットルレバーを押し込んだ。
ゴゥ、とスラスタが炎を噴き出し敵陣へと突撃する。自機への被害を減らす為には、攻撃される前に倒すだけだ。
敵がどれだけいようと、動けなくなる前に全て貫けばいいだけの話―――!
そう、思って。
『―――― ぁぁぁぁぁぁああああああああッッ!!』
裂帛の叫びが全てを覆した。
それを見たふたりは一瞬思考を停止させてしまった。
空から叫びと共に落下してきた黒い影。それが腰の位置からふた振りの刃を抜き放ったと思った瞬間には、あの砲台のようなAMは砲身ごと真っ二つに断ち切られていた。
そのまま息を吐く間もなく横に閃いた斬閃が機体をさらに横に両断する。
その流れるようでありながら激しい剣舞に言葉を失う。
バレリオンを一瞬で切り裂いたその昏いPTは地面に着地すると同時にフルブースト。一直線に敵陣へと走りながら通信を繋いできた。
『キョウスケさん!』
その叫びで我に返った。
耳を劈くアラーム音。それが示していたのは後方からの敵機接近。レーダーを確認すると同時にグリップを操り機体を鋭く振り向かせる。
次いでトリガ。左腕のマシンキャノンが凄まじい轟音と共に弾丸を吐き出した。
ほぼ密着状態で放たれた射撃にプラズマステークを構えていたゲシュペンストのボディはズタズタに引き裂かれ、爆炎と共にその破片を撒き散らす。
さらにそこを横から突っ込んでくるリオン。それに対応しようと機体を振り向かせようとした瞬間に、
ガゥンガゥンガゥン!
上空からの3発の実弾がリオンを寸分の狂いなく撃ち抜いた。
『わお、形勢逆転ってヤツ?』
「あぁそのようだな」
バレリオンを撃破したことによって行動の自由度は比べ物にならないほどに上がった。
遠くからの厄介な砲撃はなくなり、敵は残すところ10数機。
空中にはリオンが、地上にはゲシュペンストが。地上の敵は少ないが、空中の敵も二機掛かりならば何とでもなるだろう。
「――― ユウイチ、やれるのか?」
だから、その要因として重要な彼は動けるのか、それを知る必要があった。
『――― 俺は……、俺に出来ることをします』
その言葉に込められた決意は、決して軽いものではない。
それを感じ取ったキョウスケは深く追求しようとはしなかった。ただ、一言だけ。
「無茶はするなよ」
『……了解ッ!』
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