第12話

G r a v i t y E n g i n − D r i v e .

 

 

 

 機体を振り向かせつつトリガを絞った。

 その電子信号を受け取った火気管制が頭部に内蔵された二門の60mmバルカンを稼動させる。

 瞬間、ばら撒かれた弾丸は後ろから迫っていたゲシュペンストのメインカメラを撃ち抜き、目標をロストさせた。

 

 すかさずサイドスラスタと背部スラスタを吹かし、弧を描くようにしてゲシュペンストの後ろに廻り込む。

 そのまま右手のロシュセイバーを一閃。胴体を中央から上下に両断し、すぐさまドライブを起動させて上空へ退避する。

 その爆発を背後に聞きながら空中を走る。

 レーダーの反応と、それを証明するメインカメラの捉えた敵機。

 迎え撃つかのように放たれたレールガンをサイドスラスタを吹かす事で横に逸れ、回避。

 そのまま同じようにバルカンで牽制しつつ接近、真正面からの急速な方向転換により相手の目を晦まし、横合いから両手のロシュセイバーでクロスに裂断する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

 

 息が荒れる。

 決意を決めて飛び出してきたというのに、身体は勝手に反応して、そしてそれに恐怖している自分がいる。

 まるで自分の中に違う自分がいるかのような感覚。

 本当は今この機体を動かしているのは自分ではない別の誰かなのではないかという、そんな錯覚。

「くっ……!」

 右手の方向から接近してきたリオンを叩き切り、さらにバルカンを撃ち込みその背後にいたもう一機を足止めする。

 

 ガゥンッ!

 

 その一機を貫く砲撃。

『ユウ、大丈夫なの?』

 コミュニケからの声はエクセレンのものだった。

「だ、大丈夫……。まだ、やれる」

『……キョウスケも言ってたけど、無茶はなしよ。ユウはちゃんとした訓練も受けてないんだから、輸送機に戻っても―――

「いや、やる……。俺は、出来ることをやらないのだけは――― 嫌だ」

 言いつつスロットルレバーを押し込む。

 瞬間、背部メインスラスタが展開し炎を噴き出した。

『ユウ!?』

 エクセレンの驚愕の声を聞きながら、近付いてきていたヴァイスリッターの真横へと割り込み、

 

――― これかッ!」

 

 システムを切り替え、その装置を作動させる。

 

「耐えろよ……ッ」

 

 ギャァン、と派手な音を立てて、機体の周囲に発生した何か、、にレールガンが弾かれた。

 その撃ってきたリオンをヴァイスリッターから放たれた高出力のビームが呑み込み、爆炎を撒き散らせる。

『ちょ、ユウ……!?』

「だ、大丈夫か?」

『それはこっちの台詞よっ。あなた、大丈夫なの?』

 心配そうなエクセレンの言葉。

 それもそうだろう。エクセレンの目にはレールガンが直撃していたように見えたのだから。

「大丈夫……かな。ちゃんと起動したみたいだ」

『起動? ユウ、あなた何を』

「俺もよく分からないんだけど―――!?」

 咄嗟にレバーを右に倒して機体を横に滑らせる。

 その真横を突き抜ける砲弾。それを回避できたと確認すると同時にレーダーに目を走らせ敵機の位置を確認する。

「くそっ」

 毒吐き、スロットルレバーを押し込む。

 コミュニケからエクセレンの声が聞こえたが、それは無視した。

 

「させる―――

 

 ロシュセイバーの出力を上げる。

 高熱のビームフィールドを形成したそれを、

 

――― かよォォッ!」

 

 輸送機の近くで、その輸送機に今にも発砲しようとしていたリオンに叩きつける―――

 

 右肩から左の腰までを一刀で切り裂かれたリオンはその場で爆発。

 その爆炎でモニタを赤く染めながら、レーダーで輸送機の無事を確認した。

 

 はぁ、と安堵の溜息が零れた。

 輸送機は無事。爆発による被害を僅かに受けてはいるようだが、損傷といったレベルには達していないようだった。

『ユウイチ、一旦輸送機に戻れ。やるのは構わないが、せめて武器を持ってこい』

「え、あ……はい」

 キョウスケに言われた通り一旦輸送機の中へと戻る。

 そこには確かに数種類の武器があった。

 ピピッ、と機体のカメラが捉えた銃火器のデータがサブモニタに映し出された。

「M950マシンガン、M13ショットガン。それと―――

 最後に目に入った、長銃身のライフル状の武器。

 それのデータとして映し出された中にあったその名前、そして詳細なデータ。

 

「G・ライフル――― ?」

 

 狙撃銃かのようなその長銃身。見るからに射程はトップだろう。

 マシンガン、ショットガン、共に射程は短い。それにその程度の射程ならばヘッドバルカンで代用が効く。

 だからこの場で選ぶとしたら、このG・ライフルしかない。

 よし、と心で呟いて機体にそのライフルを掴ませる。

 

 ――― 瞬間。

 

   G ・ R i f l e ― C o n e c t .

   G r a v i t y E n g i n e ― D r i v e .

 

 ディスプレイに次々と表示されていく文字の中に、そんな羅列を視認した。

 祐一はその羅列を反芻しながらも操作を止めない。今、やるべきことは分かりきっている。ならばそれをやるしかないだろう。

 自分に出来ることなど高が知れている。ならば、出来ることを精一杯やると決めたのだから。

 

 ――― 出来ることを、放棄したりしない。

 

 

 

「エクセレン、そっちは後何機だ?」

 地上にいたゲシュペンストを全て片付けた為に多少落ち着くことの出来たキョウスケは空中でリオンと戦闘をしていたエクセレンに通信を繋げた。

『ちょい待ちっ。これで……ラストっ!』

 コミュニケを通して聞こえてくる砲撃音、そしてそれに次ぐ爆発音。

 その音が示すように、ヴァイスリッターの放った砲弾がリオンのボディを撃ち抜いた様子がモニタには映し出されていた。

『ふぅ、お仕事終了、っと。キョウスケ、そっちも片付いたわけ?』

「あぁ。あとは戻るだけだ」

『んじゃま、さっさと戻りましょうか』

 そう言って、ヴァイスリッターが輸送機の方へと向き直った瞬間―――

 

 ビィ―――

 

 けたたましいアラーム音が戦闘の続行を告げた。

「っ、エクセレン!」

『こっちも確認したわよ。――― 速い……シュヴェールト!?』

 レーダーが捉えた敵機の正体は、意外にもAMではなく戦闘機、F−32シュヴェールト。

 確かに純粋な戦闘機であるが為にAM以上の加速力を持つ。だが、それ故に火力不足は如何ともし難い。

 その装備では普及したPTに効果的なダメージを与える事が難しくなり、前線から遠のいていったが―――

「このタイミングで戦闘機――― 、エクセレン!」

『ただいまぁっ!』

 声に次いで放たれるビームの奔流。

 それが急速接近していたシュヴェールトの一機を呑み込み―――

 

 ――― 有り得ない程の大爆発を起こした。

 

カミカゼ仕様、、、、、、か……ッ!」

『ちょ、あれ何!?』

 エクセレンの狼狽の声。確かに普通の規模を超えた爆発をされればそれは驚くだろう。

――― 爆薬搭載機だ。あの一機一機がミサイルの代わりだと考えろ」

『だからこのスピードで突っ込んでくるってワケね―――

「そういうことだ。一機も通すな。全て撃ち落とすぞ」

 言いながらキーを叩き、さらにトリガ。三連マシンキャノンを空中へとばら撒く。

 ヴァイスリッターもオクスタン・ランチャーのEモードを連射しつつ、さらにはスプリットミサイルをばら撒いていた。

 

「く、一機抜けたか―――!」

 多くの爆発が仇になったか。一機落とすたびに大爆発が起こり、爆炎と黒煙によって視界は遮られる。

 それが数機にも及べば視界は尚悪くなり、仕舞いには視認など不可能になっていた。

『キョウスケ!』

 抜けた一機は一直線に輸送機へと向かっていた。

 あの一機が輸送機に衝突すれば、その瞬間―――

 

 

 

 

 

「ターゲット――― ロック」

 

 

 ヴン、とシステムが起動する。

 照準、エネルギー、全て完璧。あとはこのトリガを絞るだけ。

 

 立て膝をつくように機体を固定し、さらにそのライフル状の武器を保持させる。

 後部ハッチから覗く空に、一点の黒。

 ピピピ、と鳴り続ける電子音と、高鳴り続ける胸の鼓動。

 頭の中は沸騰しそうなほどに熱く、されど気持ちは恐ろしいほどに落ち着いていた。

 

 絶対に、当たる。

 

 それは確信に近い予感。

 確証など何もないというのに、そんな未来視に近いことを予測した。

 

 トリガに掛かった指に力が篭る。

 

 あれがカミカゼ仕様ならば、一定距離以上に近づかれる前に狙撃しなければならない。

 つまり外すことは許されないし、外すつもりもない。

 

 さぁ、引き鉄を引け。

 

 瞳を絞り、再度イメージを浮かび上がらせる。

 敵機に手が届くかのような感覚。その感覚に酔いながらも――― 引き鉄に掛ける指には力が篭っていく。

 

グラビトン、、、、、・ライフル―――――

 

 深く、息を吸い込む。

 照準の先のカミカゼを瞳で射抜き、打ち払うかのようにトリガを絞る―――

 

――― いっけぇぇぇッ!!」

 

 瞬間、黒い閃光が空を貫いた。

 黒い閃光は寸分狂わずカミカゼを捉え、呑み込み――― 圧壊させた。

 空に大きな爆発。

 その爆発は何をも巻き込むことなく、ただひとりきりでカミカゼを途切れさせた。

 それをモニタ越しに眺めながら、ただ一言、

 

「なんとか、なった―――

 

 呟いた。

 

 

 

 

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