第14話

自身と、その機体

 

 

 

「何か分かりましたか、マリオン博士」

 キョウスケが漆黒の機体の前で難しい顔をしていた女性に話し掛けた。

 話し掛けられた女性――― マリオン・ラドム博士は重々しくため息を吐いた後、

「まったく、無茶苦茶な機体ですわね」

 と、まるで憎いものを見たかのように言った。

 それもそうだろう。PTの技術者であり、ATX計画では中心的な立場にいるというのにこの機体は自分の常識を上回るほどのモノだったのだから。

「無茶苦茶、と言うと?」

「装甲、機動性、武装、これは納得できますわ。ただ、エンジンが―――

 エンジン。

 どんな機械にも存在する動力源。PTだけに限定するならばゲシュペンストなどに用いられている通常エンジンがそれにあたる。

 ……過去に、ブラックホール・エンジンと呼ばれるEOTを用いた機体が存在したが、その機体は起動実験中に暴走。基地ひとつを消滅させている。

 また、他にもトロニウム・エンジンや対消滅エンジンなどが存在するが、一般的ではないだろう。

「エンジンに何か問題が?」

「問題なんてものではありませんわ! 非常識です!」

 そう一通り叫んでか落ち着いたのか、マリオンは深く息を吸い込んでから、吐き出すように言った。

 

「……グラビティ・エンジン」

 

グラビティ重力……?」

 聞き覚えのない名前だった。

 ただその名前から判断するに、恐らく重力を何らかのかたちで応用したものだろう。

 そう、キョウスケは認識した。

「難しい説明はどうせ言っても無駄でしょうからかなり掻い摘んで言うと、グラビコン・システムを応用してブラックホール・エンジン擬いのことを仕出かしたものですわ」

「まさか」

 祐一が乗っていた機体が、そうも危険な代物を積んでいたとは。

 キョウスケは畏怖を覚え、それと同じくらいに興味を持った。

「危険性は?」

「それがこの機体の一番無茶苦茶なところでしてよ。これだけのモノを積んでいながら出力が完全に安定していて、危険なところが見当たらないんですから」

 本当に、憎々しく呟く。

 もともとEOTが嫌いなこともあるだろうが、それでも技術者としてここまでの技術力の差を突きつけられれば悔しくもあるだろう。

 

 機体を調べて分かった事はそれだけではなかった。

 重要な事が然程あったわけではないが、まず機体の名称。

 

 EINSAMアインザムGEISTガイスト

 

 ドイツ語で綴られた機体名。それが示す意味は「孤独な亡霊」となる。

 どうもPTは禍々しい名前に縁があるらしい。

 ゲシュペンストが指す、亡霊と言う意味。ヒュッケバインが指す、不幸を呼ぶ凶鳥などのように。

 

 ふたつ目。

 これを開発したのは恐らくKEYであるだろうという予想が立った。

 現在PTを開発しているのはマオ・インダストリー社だけではない。

 数社が開発に乗り出し、その中でも最も開発が進んでいるのがKEYだ。

 各社から技術を継承、応用し、新たなものを創り出すことに長けており、その開発された機体は中々の評判がある。

 形式番号を与えず、機体名を与えるのが特徴的な企業で、既存のPTやAMの量産も手掛けている。

 しかし内情が知れ渡っておらず、影の部分が多い企業だ。確定は出来ないが、この機体を開発した可能性が一番高いのは恐らくここだろう。

 

 そして、最後。

 コックピットに設けられていたひとつのシステム。それが最も重要だった。

 T−Linkシステムと呼ばれる念動力を持つ者を対象としたシステムで、テレキネスαパルスと呼ばれる深層脳波を感知増幅し操縦補助だけでなく武器の遠隔操作、果ては操縦者に第六感に近い物体認識力を広範囲に展開させるほどのものだ。

 しかも特定の脳波を限定した、だ。実質この機体は専用機と言っても過言ではない。

 

 ――― そう。

 

 あの機体には祐一の脳波が登録されていた。

 それが初めて乗ったときに登録されたのか、それとも事前に登録されていたのか、それは今となっては判断することは出来ない。

 ただひとつ明確なことは、祐一が念動力者であるということ―――

 

 

「ユウイチ、いいか?」

 扉に向かって声を掛けると、少しの間を置いて扉が横に開いた。

「なんスか、キョウスケさん」

 その扉の奥から顔を覗かせた祐一は不思議そうにキョウスケを眺めながら言った。

「えーっと、あの機体について、とか?」

「まぁ間違いではないが、それは後でいい。済まないが少しシミュレーターに付き合ってもらえないか?」

「シミュレーター? それってバーニングPTみたいな感じ?」

 あぁ、と頷く。

「それじゃやりますよ。きっとここのってゲーセンにあるのより本格的なんでしょ?」

「そうだな。本格的な操縦シミュレーターだ」

 よっしゃ、などと喜ぶ祐一を見ながら、キョウスケは複雑な気分だった。

 確認のためとは言え、軍とは無関係の人間を軍のために扱うということが、キョウスケにはいい思いをさせない。

 

 

 そうして、祐一はシミュレーターに入った。

 対戦相手はまだ知り合ったばかりのブルックリン・ラックフィールド少尉。

 

 本物に限りなく近く設定されたデータとしての自機に乗りこみ、祐一は昂ぶる気持ちを戦場へ投げ込んだ。

 

 

 

 

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