第18話
突然の襲撃
テールノズルが白い尾を引いた。
眼前から迫った斬撃を全身のアポジモーターを駆使して避け、さらにその瞬間に後ろに回りこむ。
「もらったぜ!」
「くッ」
右手のロシュセイバーでの斬撃は、その直前で巻き起こったブーストのフレアと衝撃によって空振りに終わる。
直感に近い判断で機体を後方へと投げ、さらにG・ウォールを展開。
その直後にG・ウォールに弾かれて散るフォトンライフルの燐光。それに目を奪われる間もなく、G・ウォールを解除すると同時にオートロックされたスプリットミサイルを二基射出し、自機をも前に走らせた。
「くそっ。ユウイチのやつ……手馴れてきたな」
ロックオン警告と、レーダーに映る熱源を確認しながらブリットは呟いた。
ミサイル二基接近。その後方からは熱源、一。
「やるしか……ないか!」
スロットルレバーを押し込む。それに応えるようにヒュッケバインMk−Uの背部スラスタが猛然とフレアを吐き出した。
身体に掛かるGを無視して、トリガを引く。
電子信号を受け取ったマニュピュレーターがフォトンライフルの引き鉄を絞った。
連続で吐き出された光弾が二基のスプリットミサイルの片方を撃ち落した。だが、射線を逃れたもう一基がスプリットの名の示すとおり、拡散した。
ブリットは慌てることなく次の行動を選択していた。
「いけぇえっ!」
スラスタを出力臨界まで高め、再加速。さらに、G・ウォールを展開する。
最高速に達したヒュッケバインMk−Uがスプリットミサイルの雨の中、正面から突進した。
爆発が連続的に起こる。
爆炎と土煙でモニタにはなにも映らないが、祐一は決して今のでは勝負がついていないと確信していた。
「――― そこかっ」
腰にマウントしてあったビームライフルを抜くと同時に放つ。
ビームは濛々と上がる煙幕を貫き――― 燐光と散った。
「くそっ、やっぱりかよ!」
ビームライフルを左手に持ち替え、右手にはロシュセイバーを握らせる。
もう一度ビームライフルを撃つ。今度は燐光さえ散らず、ただ煙幕を突き抜けた。
ち、と舌打ちする。
自分が放ったスプリットミサイルが仇になった。あんな炎と煙の中にいられては熱源さえ分からない。ビームでも撃とうとしてくれればエネルギー反応で分かるだろうが、ブリットもそこまでバカではない。
恐らくはタイミングを計っている。
エネルギー兵器を使えないとなれば、使ってくるのはバルカンだろうか。そう祐一は予想した。バルカンならば多少の牽制にもなる。間を詰めるには十分な武装だからだ。
だが、祐一の予想は風切り音とともに裏切られた。
煙幕を切り裂いて、
「そう、きたか……っ!」
有線誘導式のチャクラムが迫った。
バルカンと右腕のガトリングをばら撒く。
ビームライフルほどの威力は到底出ないものの、こちらならば当てやすい。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる――― そんな言葉もあったなと祐一は楽しげに笑った。
言葉通り、数発の弾丸がチャクラム本体に着弾した。破壊することなど到底できないが、それでも軌道を逸らすには十分だ。軌道を逸れたチャクラムは落下し、地面を抉る。機体側方を通過したチャクラムを確認すると同時に右手のロシュセイバーを一閃させる。
ジ、と音を立ててチャクラムのワイヤーが断ち切られた。
すかさず前へ意識を集中させる。ワイヤーの方向からヒュッケバインMk−Uの位置は予測できている。あとはタイミングだ。
「――― 」
ヴン、とロシュセイバーが唸る。こちらはビームの刃を形成したままなのだから向こうからは位置が完全にばれているだろう。
ブリットが出てこないのは一撃必殺を狙っているからだ。もともとブリットは敵を一撃で仕留めようとする傾向がある。剣術を習っている、というのも強ち嘘ではないようだ。
「いいぜ、ノってやる」
唇を舐める。ビームライフルを腰にマウント。代わりにロシュセイバーを抜き放つ。二刀の状態だ。祐一の白兵戦での基本の形態。
祐一は射撃も苦手ではないのだが、どちらかと言えば白兵戦を好む。これは深い理由があるわけではなく、ただ単純にこちらの方が確実性が上なだけだ。
射撃はあくまで隙を作るためのものに他ならない。
――― 警報!
反射的にグリップを左に。さらにスロットルレバーを押し込む。
機体が滑るように動いた。全身のアポジモーターが唸りを上げ、左から旋回するようにして距離を詰める。
さらに続く砲撃。
それをスピードを落とすことなく直感で避け、右手にロシュセイバーを握らせたまま、ガトリングを展開。
「うぉぉおぉおッ!」
「そこかァ!」
煙幕を突き破って一瞬で振り下ろされたビームの斬撃を左のロシュセイバーで受け止めた。
ばちり、とビーム同士がスパークを起こす。
「ちっ」
「甘いぜ――― いただきだッ!」
グリップ、トリガ。―――
発射 !
右腕をヒュッケバインMk−Uの頭部に突きつけてのゼロ距離射撃。
一瞬で頭部を粉々に撃ち砕く。
「うあぁあああああっ!?」
「もらったぜブリット!」
そのまま右腕を返すように、ロシュセイバーを振り抜いた。
「――― よし、シミュレーター終了。降りて来い。ブリット、ユウイチ」
モニタを見ていたキョウスケが言った。
ブリット対祐一でのシミュレーターの結果は、初めての祐一の黒星となった。
その結果に正直驚きながら、取り敢えず掛ける言葉を模索する。
「やるようになったわねぇ、ユウも」
「そうだな」
「そろそろ実技演習も必要かもね」
そう言ってエクセレンは笑った。だが、キョウスケは正直、笑えない。
――― と、そんなときに。
「っ、なんだ!?」
耳を劈く警報が鳴り響いた。
「どうした、いったい何があった」
管制室に通信を繋げ、言う。返って来た答えはキョウスケの予想通りのものだった。
「――― ち、襲撃だと?」
「キョウスケ?」
「……ブリット。敵襲だ、出るぞ。ユウイチは待機していろ」
そんなキョウスケの言葉に祐一の講義の声が聞こえたが、無視する。
「行くぞエクセレン」
「らじゃ! 派手に躍らせるわよん」
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