第4話 異 変 に 包 ま れ る 学 校
「な…んだよ……これ………」
祐一の目の前で、他の生徒たちが呻きを上げながら倒れていく。
生徒。
教師。
すべてが呻きを上げながら倒れていく。
いや、
「い、一体どうなってるの…?」
「普通じゃないのは確かだな…」
「何ともないのは私たちだけみたいね…」
名雪、北川、香里の三人も祐一と同様に何ともないようだった。
「う〜…耳の後ろがじんじんするよぉ〜…」
名雪が情けない声を上げ、
「この耳鳴りみたいなのが原因、みたいね」
香里が冷静に分析していく。
呻きはやがて聞こえなくなり、クラスの全員は気を失っていた。
「――― どうする相沢?」
なぜか冷静な4人。無茶苦茶な事過ぎて、逆に冷静になったのかもしれない。
「そう…だな。取り敢えず他のクラスも見てまわった方がいいな」
もしかしたら、自分たち以外にも平気な人がいるかもしれない、との判断からだ。
「そうね。そうしましょう」
それに香里も同意し、名雪がうなずく。
「うし、まずは隣だな」
隣のクラスも、状態は同じだった。
動かない人たち。
全員が気絶している。
「こっちも、じんじんくる…」
名雪がさっきまでと同じように耳の後ろを抑える。
この耳鳴りのようなものがこの事態を巻き起こしていることはほぼ確実の事実だった。
「動けるヤツはいない、か」
「そうみたいだな」
祐一の言葉に北川が答える。
「そういえば香里、栞はどうした?」
廊下に出て、まず言葉を発したのは祐一。
病気が治ってからと言うもの、過保護気味の香里が栞の事をまったく口に出さなかったことを疑問に思ったのだ。
「栞なら今日は休んでるわよ」
「どうして?」
「風邪、かな?」
何故疑問系なのかは分からないが、とにかく栞は学校に来ていないらしい。
学校にいないから、多少なり安心、といったところだろう。
この階、すべての教室を見て廻ったが、結局動けているのは自分達だけのようだった。
「それじゃあ、取り敢えず他の階も廻ろうぜ。誰か動けるやつがいるかもしれないからな」
と、そんな提案を祐一が投げかけたところで、
まるでそれをさせまいとするかのように。
ヒュ―――
風切り音が鳴った。
そしてザクリ、といった裂音。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
廊下に舞う鮮血。
祐一の左腕に、何かで切りつけられたような傷が出来ていた。
「祐一っ!?」
その場に蹲る祐一。痛みを抱えながらも、自分を傷つけたものを見極めようとする。
「!?」
そして、その場にいた全員が硬直した。
どんな人間だろうと、恐怖に体が動かなくなっただろう。
そこにいたのは、一振りの剣を構えた、中世を思い起こさせる甲冑だった。
「な…んで…こんな所に……」
香里がうろたえていると、甲冑の手が微かにぶれた!
「!? 危ない!」
何かを感じ。北川が香里を突き飛ばす。
「きゃぁっ!」
「ぐぁ!?」
香里を突き飛ばした北川の肩から血が流る。
それほど深い傷ではないが、その血はこれが現実であることを全員に叩きつける。
ガシャン、ガシャン
甲冑が歩き出す。
だんだんと、距離を縮めていく。
逃げなければ。分かっているのに、
「いや……」
恐怖に体が動かない。
「いやぁ………」
そんな名雪に向かって、甲冑が一歩、一歩、歩を進めていく。
ガシャン、ガシャン
廊下に響く足音。
それが恐怖心をさらに煽っていく。
「ぁ…」
とうとう名雪の目の前までたどり着く甲冑。
ゆっくりとした動作で、剣を振り上げる。
「な…ゆき……!」
全員が恐怖に縛られ、体が動かない。
出来ることは、叫ぶことだけ。
「っ」
恐怖に目を硬く瞑る名雪。
振り下ろされる一振りの剣。
だが、その切っ先が名雪の体を捕らえることはなかった。
ギィン!
鉄と鉄とがぶつかる甲高い音。
そして、目を開けた名雪の瞳に映ったもの。
それは、甲冑の剣を受けるもう一振りの剣。
そして、
川澄舞、その人だった。
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