第5話   能 力 者 と い う 存 在

 

 

 

「ま…い……?」

 祐一たちの目の前に現れ、そして名雪を救ったのは他でもない、川澄舞だった。

 

「早く離れて…!」

 今も舞の剣は甲冑の大振りな剣を受け止めている。

 名雪も舞の言葉に。その場から離れ、距離を取る。

 

 キィン!

 

 舞が相手の剣を弾く。が、力は相手の方が断然上だ。

 弾かれた腕をそのままに、縦に振り下ろす。

 甲冑の剣に比べ、舞の剣は断然細身だ。まともに受ければ折れるに違いない。

 

 振り下ろされる剣に合わせ、舞も自らの剣を振り上げる。

 剣が折れたとき、それはその者の敗北――― 死を意味する。

 

 受けきれなくなった刃は確実に身を裂く。

 舞の不利は目に見えていた。

 だが、舞は下がろうとはしなかった。

 絶対に負けない、意思があった。

 引くわけにはいかない、理由があった。

 だからこそ、前へ!

 

 ふたつの刃がぶつかり合おうとした、その瞬間、舞が叫んだ!

「【 断 】ッ!」

 打ち重なった思われた瞬間には刃が途中からはじけ飛んでいた。

 ―――― 大振りの、甲冑の剣が!

 

 誰もがその事実に驚愕しているのを無視して、舞が振り上げられた刃を、そのまま返し、振るう!

 

 斬

 

 刃音を響かせ、舞の剣は文字通り甲冑を両断した。

 ずるり、と縦にずれる甲冑。

 斬閃が描いた線を境に、甲冑は左右ふたつに分断された。

 

「たお…した……?」

 香里が搾り出すように呟いた。

「っ…一体、どうなってんだよ…」

 北川も肩を抑えながら立ち上がる。

 突然の襲撃。

 突然の助け。

 そしてありえないはずの斬閃。

 訳がわからないことばかりだった。

 

「祐一…大丈夫……?」

「あ…あぁ…」

 舞が心配そうな顔をしながら訊いてくるのに答え、祐一はゆっくりと立ち上がった。

 腕の怪我も思ったよりも浅い。

 止血さえしておけば大したことは無いだろう。

 

 

 

 

「なぁ舞、さっきのは…」

 廊下を移動しながら祐一が声をかける。

「魔物と同じような気配だった…だから倒した」

 舞がさらっと言ってのけるが、祐一の疑問はそれだけではなかった。

「どうやって【斬った】んだ?」

 その言葉に、舞が僅かながら反応する。

 その剣はすでに鞘に収められている。

「それ、は――――

 

「おい相沢ッ」

 舞が言いかけたのを打ち消すように北川が叫んだ。

「アレ見ろ!」

 北川が指す方向。今いる校舎とはまた別の校舎。そこにあるのは職員室。そしてそこに見えたのは―――

「佐祐理…!」

 その姿を認めると同時に舞が駆け出す。その速さ、すでに人の限界以上!

 とても追いつけるような速さではない。

「舞…! くそっ、俺らも行くぞ!」

 祐一が言い、全員が職員室に向かって走っていった。

 

 

 

 

 

「はぁはぁ…」

 職員室も状況は同じ。全ての教師が倒れている。

 倒れていないのは、ひとり。

「舞…」

 友の名を呟く少女――― 佐祐理だけだった。

 教師の手伝いに、職員室に来ていたときに起きた事件。

 教師が倒れていき、なんともないのは自分だけ。

 そして教師と変わるように現れた異形の者。

 

 周りを取り囲むように異形の者がじわじわと間隔を狭めていく。

 その数、ざっと6体。

 窓側へと、追い詰めていく。

 

「ま…い……」

 

 異形の者が佐祐理に手をかけようとした時だった。

 

 ザ、ザンッ

 

 ふたつの刃音。そして、

 

 ドガァ

 

 ドアを突き破るように飛び込んできた影が抜く手も見せずに抜刀、一瞬の内に3体の異形を切り伏せる!

 それはまさに、一陣の風。

 

 それを見た佐祐理の顔に、喜びが浮かぶ。

「…まいっ」

 

 飛び込むと同時に異形を切り伏せ、今また、残りの異形と対峙する舞。

 勝負は―――

 

 一瞬!

 

 舞が体中をバネにして一気に踏み込む。

 その速さに反応しきれず一体がまず切り伏せられる。

 

 と、一体の異形が後ろから奇襲をかける…が、

「…ふっ」

 鋭い呼気と共に身を落とすことで避け、そのまま剣を振りぬく。

 

 ザンッ

 

(あと…ひとつ!)

 

 そう振り返って、露骨に焦りが浮かぶ。

 

(いない…!?)

「舞!?」

 佐祐理の声と共に、最後の一体に気付くが…

「しま…っ」

 最後の一体は、上にいた。

 気付いたときにはすでに攻撃態勢。躱せられる距離でもタイミングでもない。

 とっさに目を閉じる。

 

 ドゴッ

 

 重い衝撃音。そして、吹き飛ぶ体。

「……?」

 舞には、なにも起きていなかった。

「舞、大丈夫?」

 そして、その舞に声をかける佐祐理。

 今、なにが起きたのか、舞にはすぐに理解ができた。

 

 

「な、なんだった…んだ…?」

 が、理解できていない人たちもいる。

「祐一…」

 そこには、祐一、名雪、香里、北川の4人がいた。

 

「今、佐祐理さんの姿がぶれたかと思ったら…次にはもう殴り飛ばした後で…」

「……」

「舞も、斬れないはずのモノを斬ったし…」

「……」

 祐一の言葉を無言で受け止めるふたり。

「一体…一体どうなってんだよ!?」

「能力」

 ふと、佐祐理が口を開いた。

 

「のう、りょく…?」

「そうです。佐祐理も、舞も、能力を使えるんです…」

「ちょ、ちょっと待って下さい。その能力と言うのは一体何ですか?」

 香里の疑問の言葉に、佐祐理が話し始める。

「能力というのはですね――― 言葉通り、普通には考えられない力のことを言うんです」

「それで、その力を使える人を、能力者」

 あまりにも常識から外れた話に、祐一も北川も名雪もついて行くことが出来ていない。その中で出来ているのは、

「つまり、その能力と言う物のお陰なんですね? さっきの力は」

 香里だけのようだった。

「ちょ、ちょっと待て! なんでそんな力があるんだ!?」

「それは…その…あ、あはは〜、よく分からないんですよ〜」

「よく分からない、って……」

「祐一、分からないものはしょうがない」

「おい…」

 

「でも、ひとつだけ…言える事があるんです」

 佐祐理が、ぽつ、と呟く。

 その言葉に反応して、全員が佐祐理に注目する。

「祐一さんたちも――――

「俺…たちも……?」

――― 能力者です」

 

 

 

 

「え?」

 一瞬の沈黙の後、いち早く復活した祐一が訊く。

「ど、どうして分かるんだ?」

「能力者は、他の能力者が近くにいると、感じるんです。その…体の中心に響くような感じを」

「それが俺たちからも…ってことか?」

「そうですね」

 

――― 俺たちが能力者だってのは、分かった。佐祐理さんが言うんだし、嘘じゃないだろうしな。…ところで」

「はい?」

「俺たちの能力、ってのも分かる?」

 祐一の疑問に、佐祐理は横に首を振った。

「それが分からないんですよー。人の能力まではちょっと」

 

「それにまだ目覚めてない」

「目覚めるとかあるのか?」

「はちみつくまさん」

「能力は何かの拍子に使えるようになるみたいですねー」

「そうなのか?」

 祐一の言葉に舞が首肯し、佐祐理が話し始める。

 

「舞は前から使えるみたいですねー。いつから使えるようになったのか訊いても教えてくれないんですけど…」

(魔物との戦いの中で、だろうな…)

 祐一がそう考え舞を見ると、考えを読んだのか、ひとつ頷いた。

「佐祐理さんは?」

「佐祐理は〜…そうですねー。前に、男の子を助けたことがあるんです」

 思い出すように、少しずつ語り始める。

 

 

「学校の帰りに道に飛び出したボールを追いかける男の子と、そこを通り抜けようとした車が見えて…走ったんです。男の子を助けたくて」

 一言一言、思い出しながら語る佐祐理の言葉に、静かに耳を傾ける。

「でも…追いつけるような距離じゃなくて…それでも、絶対に助けたいと思って…もっと速く走れたら≠サう思った時でした。体の奥で何かが弾けたような感じがしたんです」

 その瞬間、佐祐理は能力に目覚めた。

 子供を助けたい、という強い思いが能力を引き出したと言える。

 

「それで、次に気付いたときには男の子を抱えて道の反対側にいました。そのときは佐祐理もビックリしましたー。自分の体が信じられなくなりましたよー。でも、男の子を助ける力を授かったんだと思って、神様に感謝しました…」

 

 

「そっか。佐祐理さん、その力が嫌いなわけじゃないんだ」

「そうですねー。人を助けることができる力だと思うと、少し嬉しいんです」

 

「俺にも、そんな力があるのか…。なんか信じられないな」

「俺もだ。なぁ相沢、俺たちの能力って何だろうな?」

「さぁな」

 

「そう言えば、ふたりの能力って、一体どんなのなんだ?」

「そう言えば言ってませんねー。えっとですね、佐祐理の能力は【加速】ですー。一時的に身体能力を上げるものですよー」

「へぇぇ…。じゃあ、さっきのを殴り飛ばしたのは、それで一時的にパワーを上げたってわけか」

「あははーっ。そうですねー」

 佐祐理の能力は【加速】。もともと身体能力の上昇する能力者だが、そこからさらに上昇させることができる能力、ということらしい。

 

「舞の能力は【断裂】ですよー。どんなものでもスパっと切れちゃう能力ですねー」

 要するに切断の能力。剣で斬ることのできないモノも、その【断裂】によって切り裂くことができる、ということだ。甲冑の剣を斬り飛ばしたのもその力があってのこと。

 

 

「ふたりとも、どちらかといえば戦闘向き、な能力になるのかな?」

「そう…ですねぇ」

 佐祐理の能力は微妙なところだが、あながち間違いではないだろう。

 

「それはそうと、今回のコレは一体なにがおきてるんだ?」

「それは分かりませんねー。でも、私たち能力者はなんともないみたいです」

 言われるまで誰も気付かなかったが、何の影響も受けていないのは、たしかに能力者である祐一たちだけだ。

「…能力者ってのはやっぱり能力に対して多少の抵抗力があるんだよな?」

 祐一のひとつの疑問。

「ありますねー」

 それに答える佐祐理の言葉。

「ってことは、この事件の首謀者も能力者の可能性がある、って言えないか?」

「あ…確かにそうかもしれないわね…」

「でも何の目的でこんなことするんだ? なぁ美坂、どう思う?」

 北川の問いに、呆れ顔をしつつ、

「そんなこと知るわけないじゃない」

 と冷たく返す香里。

 

 

「私は魔物を狩る者だから…」

 ぽつり、と舞が言い、部屋を出て行こうとする。

 だが、ひとり出て行こうとする舞を、祐一がその腕をつかんで止めた。

 

「ちょっと待て舞。まさかとは思うが…ひとりで行く気か?」

「はちみつくまさん」

「待てって。――― 俺も行く。舞ひとりで行かせるなんてこと、俺には出来ない」

 掴んでいた腕を放すと、舞は何も言わず歩き出す。そしてそれに続くように祐一も歩き出した。

「待ってよ舞ーっ。佐祐理も行くよー」

「私も行くわ」

「私もっ」

「ここでひとりだけ帰るなんて後味悪過ぎだしな」

 他の面々も行く気だ。ひとりに押し付けるなんて事ができない、そんな連中ばかりなのだ。

「…うし、それじゃ行くぜ!」

 祐一が気合いを入れ、

 全員が、心中に誓いを立て、力強く頷く。

 

 

 

 異形のモノとの、

 

 

 そして、道の能力者との戦いが、

 

 

 

 今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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