第7話   振 り 上 げ ら れ る 兇 刃

 

 

 

「まさか天野が能力者だとはな…」

 祐一が意外そうに口を開く。

 周りの全員はかなり疑問的な表情をしていた。

 

「…なぁ相沢。この子、誰だ?」

 周りを代弁してか、北川が問い掛ける。

「あぁ…、こいつは天野美汐。見ての通り1年生だ」

「…天野美汐と言います。以後お見知りおきを」

 美汐の口調と語調は丁寧で、というか丁寧すぎて、その年齢を間違えてしまったのかと思わせるほどだ。

 

 

 

「…先輩方も…能力者なのですね?」

 美汐がふと問い掛けた。

 その問いに舞はただ頷き、

「そうですねー」

 佐祐理は笑顔で返す。

 

「それに、相沢さん方も…」

「う〜ん…そうらしいんだが、俺たち使えないんだよなぁ」

 祐一が照れるような、からかうような、微妙な口調で言った。

「そう…ですか…。目覚めていないのなら、それが一番なのかもしれません…」

 美汐の呟きに密かな疑問を抱きながらも、今は話題を変える。

 

「天野、お前これからどうするんだ?」

「真琴の所に行くつもりです」

 ハッキリと、美汐は言った。

 

 今、この学校で起きている事態が、他の場所で起きていないとは言い切れない。

 確かに、心配になるのも無理はないだろう。

 さらに、美汐が言うには真琴も能力を持っているらしい。

 妖狐としての力が、残っているらしいのだ。

 今回の事態が、能力を持つ者に何かするためのものだったら?

 その可能性があるからこそ、美汐は真琴の所に行こうとしていた。

 

「そう…か、もし何かあったら連絡してくれ。俺たちもなるべく駆けつけるから」

「はい」

 そう返事だけ残し、美汐は校舎から駆けるように離れていった。

 真琴を、非日常という舞台に上がらせないためにも。 

 

 

 

 

「さて相沢、これからどこを探してみるんだ?」

 美汐を見送った後、北川が口を開いた。

「そうだな…教室は全部回ったから…あとは体育館辺りか?」

 体育館辺りには、各部の部室なども並び、実は部屋が多い。そして体育館自体も大きいため範囲はかなり広い。

「あの辺りはあまり乗り気にはならないわね…」

「しょうがないよ香里。この学校、実は部活に力入れてるから…」

 

 

―――― にしても多すぎだろ…」

 目の前に連なる部室、部室、部室……。

 聞いたことのないような部活名まであったりするが、そこは気にしないでおくとする。

「ひとつずつ見ていくしかないですねぇー」

 佐祐理はいたってペースを崩さずに各部屋を見てまわっている。

 

「なぁ、手分けしないか?」

 そんな中、祐一が全員に提案した。

「相沢くん、あんな化け物がいるこの中を手分けするつもり?」

 香里がもっともなことを言うが、

「大丈夫、この辺りに魔物の気配はない…」

 舞が心配ないと言う。

 舞の言葉に不安などは感じられず、その言葉は正しいと思われた。

「なら大丈夫だな。よし、手分けで探すとするか」

 

 

「なぁ相沢ー。お前さっきの子とどういう知り合いなんだー?」

「あー、真琴繋がりだー。家の居候のー」

「あの子かー。って、お前も居候の身だろー?」

「そーいえばそうだなー」

 少し離れているのか、大きな声で伸ばしながらの会話。

「あははーっ、祐一さんも顔が広いですねぇー」

「相沢は気に入った女の子を見るとすぐに声を掛けるからなぁー」

「…待て。今のは聞き捨てならんぞ、北川…」

 襲いくるプレッシャー。祐一から発せられているのは確かな殺意。

「スミマセンデシタ」

 北川はコンマ3秒で謝っていた。

「おふたりとも仲がいいですねー」

 どこか気の抜けている祐一、北川、佐祐理サイドだった。

 

 

「居ないねー」

 どこかのんびりとした声が響いていた。

「うーん…どこに行ったのかなぁ?」

「…名雪、あなたいつもマイペースよね…。感心するわ」

 名雪はいたってマイペース。香里もあまり変化ないように見えるが、その心の内には不安などが渦巻いていた。

 見たことのないような異形の者との遭遇。そしてそれを切り伏せた先輩。そしてそれと同等の力が自分にもあると言う…。混乱や不安を招く要素はいくらでもあった。

 それでも彼女がそれを表に出さないのは、自分自身の不安が名雪たちにも不安を与えることになると分かっていたからだった。

 

「川澄先輩、そっちはどうですか?」

 香里が訊くが、

「こっちにも…いない」

 返ってくる返事はそればかりだった。

「ここの辺りにはいないようですね。…一旦相沢くん達と合流しませんか?」

 香里の提案に舞が頷き、再び顔を上げたとき、その表情が一気に強張る。

「? 川澄先輩、どうし――」

 言い切ることは、できなかった。

 左肩に走る、鋭い痛み。声も出ないまま思わず床に蹲る。

 

「っ、油断した…!」

 舞が刀身を抜き放ち、そのまま横に振り抜く。…が、それはただ空を切った。

 横からそのまま手を返し、下から上へと剣を振る。

 ミシッという音が響き、【断裂】のエネルギーが弾き出される!

 しかし手応えはない。

 

「…気配が読めない…」

 気配が読めない。いや、それ以前に姿も見えないのだ。

 舞が標的を見たのは一瞬。香里が肩を切られたその一瞬だけだ。

 小型の、小悪魔を思わせるシルエット。それが右の鉤爪で香里を傷つけたのだ。

 

 ヒュンッ

 

 空気を裂くような音。それを聞き、咄嗟に身を後方へと下げる。

 だが、それはあまりいい選択ではなかった。

 異形が現れたのだ!

 舞の…後ろに。

「しま…っ」

 無理な体勢ながらも、その攻撃を剣で受ける。

 が、さすがに受けきることができず、剣は折れ、そのまま廊下の壁へと叩き付けられた。

「く…ぅ……」

 無理な体勢で攻撃を受けたためか、舞はしばらく動けそうにない。

 香里も肩に受けた傷のせいでまともには動けない。

 そんな時、

「あれ? 香里、舞さん?」

 香里の親友の少女が、

 先の教室から、顔を出した。

 

――― 名雪っ! 逃げて!!」

 香里が叫ぶが、その意思はすぐには伝わらない。

 名雪の目に映ったのは肩から血を流し叫ぶ親友。

 そして、壁にもたれるように蹲る先輩の姿。

「ぁ…」

「名雪っ!!」

 香里の声が響くと同時に、名雪が倒れこんだ。

 異形がまたも姿を消し、名雪を押し倒したのだ。

 倒れた名雪の正面には再び姿を現した異形の姿。

 右手の鉤爪を怪しく舐め、狂気に満ちた表情で名雪を見下ろしている。

 

 誰も動けない。

 舞も、

 香里も、

 名雪も動くことができない。

 祐一たちもここにはいない。

 

 誰も動けない。

 

 

 そんな時、異形が右手を、凶々しい鉤爪を――――

 

 

 

 振り上げた。

 

 

 

 

 

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