第8話   衝 撃

 

 

 

 誰も動けない。

 舞も、

 香里も、

 名雪も動くことができない。

 祐一たちもここにはいない。

 

 誰も動けない。

 

 

 そんな時、異形が右手を――――

 

 振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なゆきぃーーーーーっ!!」

 

 私には叫ぶことしかできない。

 体が動いてくれない。

 誰も動けない。

 他に誰も居ない。

 

 ここで終りなの?

 もう、お終いなの?

 

 

 私に…

 私に力があれば…

 名雪を…

 栞を…

 みんなを助けることができるのに…

 もう後悔なんてしたくない…

 もう逃げ出したりしたくない…

 

 私に力があれば…

 

 力が――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズドン…ッ

 

 重々しい音が響き渡ったかと思うと、

 今、名雪に手をかけようとしていた異形が吹き飛んでいた!

 異形はそのまま廊下の壁に激突し、その衝撃が学校中に伝わる。

 

 すぐには理解できないような光景。

 信じられないような出来事。

 

「か…おり……?」

 名雪の見たもの、それは常人とは思えないスピードで近づき、異形を殴り飛ばした、美坂香里その人だった。

 

 

 

「はぁー…」

 大きく息を吐き出す。体から溢れる力。今までに感じたことのない、【能力】のエネルギー!

 今までは存在しなかったモノのはずなのに、ずっと共にあったかのようにその使い方が分かる。まるで身体の一部のように、無意識で発動させることが出来る。

「もう、あなたの好き勝手にはさせないわ…」

 目の前の異形を睨み付け、香里がエネルギーを上昇させていく!

 

 ブンッという音を残して、再び異形の姿が消える。

 【高速移動】にあたる異形の力。別に、消えているわけではない。ただ、目に見えないほどの速さで動いているだけだ。

 そのことが、理解できていた。

 そして、その対抗策も分かっている。

「その手はもう通じないわよっ!」

 香里の右腕にエナルギーが収束し、そのまま地面へと叩き付けられる!

 

 ズゥン!

 

 廊下全体に衝撃波が突き抜ける。そして、その衝撃によって異形の動きが止まった!

「ッ!」

 香里が一気に踏み込み、異形の顔面に【衝撃】を叩き込む。

 

 何かが砕けるような音がした。

 

 ギ…ケ…キィ……

 

 聞きなれない、悲鳴に近い声。

 異形の頭部は潰れ、醜い顔がさらに見てはいられないものへと変化している。

「はぁぁぁ…!」

 

 ズドドドドドド…!!

 

 そのまま香里が目にも止まらぬスピードで次々と連撃を喰らわせていく!

 そのひとつひとつにエネルギーが込められ、そのエナルギーは衝撃を倍増させていく。

 当然、そんな連撃を喰らった異形は……原型を留めていないほどに変形していく。

 

「これで…!」

 香里がアッパーの要領で異形を上空へと跳ね上げる!

 そして自らが跳躍、その身動きの取れない体を【衝撃】の全エネルギーを収束させた右の拳で全体重を掛け…

「終わりよっ!」

 床へと叩きつける!

 

 ズドォォン!!

 

 床がクレーターの様に沈下する。

 その衝撃は学校中に伝わり、近くの窓は粉々に粉砕された!

 

 そして香里が立ち上がったとき、

 異形は空気に溶けるように霧散していった―――

 

 

 

 

 

「香里、凄い…」

「ホント。凄いね香里ー」

「でも、何か凄く疲れたわ…体が言うこと聞かないもの…」

 異形を倒し、しばらくして傷も癒えたころ、祐一たちと合流した舞たちは、さっきの香里の力を話していた。

 

「それはエネルギーを使いすぎたから…」

 能力を使用するには、自分自身のエネルギーが必要になる。

 これを大量に行使すると、自分自身の体に負担がかかり、動けなくなるのだ。

「でも少しずつ回復していきますから、休めば大丈夫ですよ」

 

「はぁ…。よく分からないけど、香里、どんな能力だったんだ?」

「【衝撃】の能力みたいね。私の力は」

「【衝撃】? どんなだ、それ?」

 口で言われてもよく分からないといった感じの祐一と北川。

「どんなって…そうね、触れたモノに衝撃を送り込む力、ってとこかしら?」

「??」

 やはり理解できていないようだった。

 そして、そんなふたりを見ていていらついてきたのか…

「つまり…コレよっ!」

 香里が拳を振り下ろし、床にクレーターを作り出す!

「…ふぅ。わかった?」

「「お、おうけぃ」」

 祐一と北川の声は引きつりながらも完璧に重なっていた。

 

 

「ん? そー言えば舞、その剣、折れたのか?」

「はちみつくまさん」

 舞が手に持っているのは柄の部分だけになってしまった剣。

 今まで夜の校舎で魔物と戦ってきた時からの愛用の剣。それが折れてしまったのだ。

「私は、剣がないと戦えない…」

 舞がぽつりと呟いた。

「あ、それなら私が」

 そう言って、名雪が舞から剣を受け取る。

「? 何をするつもり?」

「少し待っててくださいねぇ」

 名雪が剣の柄を両手で包み込むようにすると、両の手のひらの間から、ポゥと光が零れた。

 どこか温かみを感じるような蒼い光。その光は次第に大きく膨らみ始め、だんだんとひとつの形を形成していく。

「これは…」

 それは誰の呟きだったか、

 光が収まったとき、そこにあったのは錆も刃毀れもない、確かな輝きを秘めた舞の剣だった。

「【復元】の能力…?」

 舞が驚きを浮かべたまま言った。

「【復元】の能力? えーっと…?」

 名雪が不思議そうに首を傾げる。

「名雪、この力は…?」

「あ、これ? うーん、昔から使えたんだけど、あまり人前で見せると気味悪がられるから使ってなかったんだよー」

 実は名雪は昔から能力者として目覚めていたらしかった。

 能力というモノとして認識していなかっただけで。

 

「はぁぁ…まさか水瀬さんまで力に目覚めてるなんてなぁ…」

「何か、取り残された感じだな、俺たち…」

「まぁ、確かに」

 未だ力に目覚めていない祐一と北川。

 周りが目覚めているのに自分たちだけ目覚めていないことが嫌なようだ。

 そして、自分の力がどんなものか知りたい、という事もあった。

「いつか目覚めますよ、祐一さんも、北川さんも」

 佐祐理に言われ、少し期待のようなものが浮かぶ。

「そう…だな。ま、その時がこれば分かるか!」

「そうだな相沢。とりあえず今はやることをやらないとな」

 ふたりが立ち上がると、それに引かれるように他の全員も立ち上がる。

 

「んじゃ、最後は体育館だな」

 全員が体育館へと向かいだす。

 

 そこに、何があるのかも知らずに。

 

 目の前にはただ未知≠ェ広がっていた…。

 

 

 

 

 

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