第10話   吹 き 抜 け る 風

 

 

 

 一体、なんでこんなことに…

 なんで俺はここに…

 なんで…

 

「死んでもらう!」

  

 死ぬ…

 俺が…?

 

 なにもしないで

 なにもできないで

 やりたいことを残して

 知りたいことを知れずに

 

 

 死ぬ

 

 

 …嫌だ。

 嫌だ!

 

 俺は死にたくない!

 何も知らずに殺されるなんてゴメンだ!

 俺は死なない!

 死んでたまるか!

 何をしてでも…

 俺は…

 

 生きる!

 

 誰も…殺させはしない!

 

 みんなで…帰るんだ!

 

 その為にも俺は…

 

 

 能力チカラ≠ェ欲しい!!

 

 

…… そうだな ……

 

…… 吹き飛ばしてやれよ ……

 

 

 

 ズダァン!

「が…は…!」

 祐一に手を突き出そうとしていた男が突然、床に叩きつけられた!

「…っ、なんだアイツは…!」

「俺か…?」

 

 

 ヒュゥ…、と風が流れる。まるで少年を包み込むかのようなゆったりとした流れ。

 

 

「俺はただの…」

 

 

 

 

 

「高校生…」

 

 

 

「いや…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「能力者だ!」

 

 

 

 ゴゥ!

 

 一気に膨れ上がるエネルギー!

 ここにいる者が誰も及ばないほどのエネルギーが溢れ出す。

 

「くっ、どんな能力か知らんが、俺の【火炎】を止めることは出来まい! 【爆炎ボンバー】!!」

 男が叫ぶと同時に弾き出される巨大な炎!

 当れば能力者と言えど、無事にはすまない。

 

 

 

 …… 吹き飛ばしてやれよ ……

 

 

 

 声が、聞こえた。

 また同じ声。

 知っているような、知らないような、そんな声が。

 

 その声に答えるように、祐一が炎に向かって、ス…ッと手を向ける。

 

 

 これが能力?

 難しくも何ともない。

 手にとるように分かる。

 

 そう、そうだ。

 例えばこうだ。目の前の炎にぶつける。

 それだけだ。

 

 

「な…なぜ俺の炎が…!?」

「消えたか…か? 俺がぶつけただけだ」

 

 ヒュン…

 

 祐一を中心に、大気が震える。

 震えは止まらない…加速する!

 祐一と男の間には未だ炎が舞っている。天使の羽根のように、細かい欠片となって、ひらひらと火の粉が舞う。

 その炎の欠片が一瞬でかき消された!

 

 それだけではない。

 体育館中の煙、そして燃えつづけていた黒炎、その全てが吹き飛んだのだ!

 

「き、貴様は…!?」

 男の顔に驚愕の色が浮かぶ。

「俺のことなんてどうでもいいだろ…」

 祐一が右手で横薙ぎに空を斬る。

 

 ゴォ!

 

 その瞬間巻き起こる【風】!

 全てを吹き飛ばすかのように吹き荒れる!

「舞たちを傷つけた分…返させて貰うぜ…」

 祐一が自分の周りに【風】を収束させながら近づく。

「……くくっ、ココまでのようだな」

「!?」

 

 ボフッ!

 

 突如、視界が煙に覆われる。

「これ以上やるとこちらの身が危ういのでな…

 【天使悪魔の翼アンバランスウイング】の少女を手に入れることが出来なかったのは痛いが…致し方あるまい…」

 煙で視界が利かない中、段々と遠ざかる男の声。

「待ちやがれ!」

 祐一が【風】で煙を吹き飛ばすが…

 そこにはすでに男の姿はなかった。

 

 

 

「舞、大丈夫か?」

「…はちみつくまさん」

 舞の言葉からはそれほどのダメージは感じられなかった。

 能力を持つ者だからか、治癒能力も高い。

 アレだけの炎を受けながらも軽い火傷程度で済んでいる。香里、佐祐理も同様だ。

「相沢くん、あなたも能力に目覚めたみたいね」

「ん? あぁ、コレだろ?」

 祐一がゆっくりとした動作で空をなぞる。

 そして生み出される【風】。頬を撫でるようなやさしい【風】が周りを吹き抜ける。

「【風】の能力ですねー」

 佐祐理が言うように、祐一の能力は風。大気を知り、そして操る力。

「みんな無事でよかったよー」

 名雪が嬉しそうに言う。

「あぁ、そうだな」

 祐一も同じだ。誰も死なずに済んだ。また…みんな笑い合える。

 

「あの男を逃がしたのが惜しかった」

 舞が呟いた。

「まぁ…な。でも、あゆは助けれたし」

「そう言えば、さっきの男…【天使悪魔の翼アンバランスウイング】とか言ってなかった?」

 天使悪魔の翼アンバランスウイングがどんな物かはまったく知りえない。だが、その言葉が指していたのがあゆだということは確実だった。

 そして、そのあゆを男たち、、は必要としている、と。

 男たち、、…そう、あの男は「俺たちの…」と言った。少なくとも敵は個人ではない。何らかの力を有した集団だということだ。

 

「もう少し話を聞きたかったわね、あの男から…」

 

 

 

 

「ふん…ボクがいるこの学校でよくも暴れてくれたものだな」

「……貴様は…」

 学校内…いや、すでに校外と言っていい場所にふたつの人影があった。

 片一方は少年。制服姿。つまりは生徒だ。

 そしてもう一方はさきほどまで祐一たちと戦っていた男だ。撤退中に遭遇した、といったところか。

「ボクのことなど関係ないだろう? そんなことより…」

 

「目的とやらを話して貰おうか…」

 

 そう少年が言った瞬間、両者が…激突した。

 

 

 

 

「なぁ、これからどうする?」

 祐一が全員に問い掛けた。

 

 今、祐一たちは体育館裏にいるわけだが、男の能力が消えたのか、昏倒していた生徒たちも意識を取り戻してきている。

 無茶苦茶になった学校内を見て、大騒ぎになることは目に見えていた。

 

「そうね…どうせもう授業できる状態じゃないし…帰るわ」

「そうですね。確かに留まっていても仕方ないですし」

 佐祐理が言うように、ここに居てもなんの意味もない。

「でも祐一、またさっきの人みたいな人が来たらどうするの? バラバラだと危ないよ?」

 名雪がもっともなことを言う。

「確かにそうだな…そうだ、家、来ないか?」

「いいですねー、それじゃあ佐祐理はお言葉に甘えさせて貰いますねー。舞もいいよね?」

「はちみつくまさん」

 佐祐理、舞は同意。

「私は遠慮しておくわ。栞が心配だし…」

「そっか、それじゃ仕方ないな」

「相沢…俺も遠慮しとくよ」

 香里、北川は帰るらしい。

 

「そうか…香里も北川も気をつけろよ」

「えぇ、分かってるわ」

「じゃあな、相沢」

 そう言ってふたりは帰っていった。

 そのときの北川が、何か沈んでいるように感じたが、この時はそれほどに深く考えなかった。

 

 

 

 男が倒れていた。全身を朱に染めて…。

「そうか…それが目的か…」

 男を見下すように言う少年。傷はない。能力者相手にこんなことができるのは能力者しかいない。それもかなり強力な。

 

天使悪魔の翼アンバランスウイングの少女か…」

 呟きながら少年はそこから立ち去った。

 まるで、なにもなかったかのように…。

 

 

 

 

 

「それじゃ帰るか!」

 

 祐一たちは水瀬家に向かった。

 

 これからのことを話し合うため。

 

 自分のことを確かめるため。

 

 男の言葉を考えるため。

 

 

 

 

 

 

 永遠は存在した。

 

 

 だが、その永遠は崩壊した。

 

 

 そして新たに始まる永遠。

 

 

 永遠の終わり、永遠の始まり。

 

 

 

 

 

 全ての運命はここから始まる。

 

 

 

第1章 【永遠の終わり、永遠の始まり】 End

 

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