白い翼。

 

 天使を象徴せし白。

 

 黒い翼。

 

 悪魔を象徴せし黒。

 

 紅い翼。

 

 それが象徴するものは、

 

 天使

 悪魔

 

 それとも…

 

 

第11話   戦 い を 経 て

 

「ただいま…」

 

 祐一たちが水瀬家へと戻ったときにはまだ秋子は家に居り、いつも通りの笑顔で迎え入れてくれた。

 

 いつもならまだ学校にいるはずの時間なのに何も聞かず、

 ただ穏やかな微笑みを浮かべ、

 舞や佐祐理が怪我をしていることも一目で見抜き、適切な処置を施したりもしている。

 

 やはり只者ではない、そう全員が感じていた。

 

「そう言えば秋子さん、真琴はどうしたんですか? 居ないみたいですけど」

 ふと、気付いたことを訊く祐一。

「真琴なら美汐ちゃんと出かけましたよ。今日は泊まって来るみたいですね」

 真琴を心配していた美汐。

 あの時学校を出てからすぐに来たのだろう。

 そしていつ、またあのようなことが起きるか分からないため、自分がついていようと思ったに違いない。

「天野が一緒なら大丈夫だな…」

 祐一はひとり、安堵した。

 

 

 その後、秋子が昼食を用意してくれた為、全員でそれを食べ、

 今日のことについて話し合うことになった。

 

 

「まず訊くけど、能力ってのは一体なんだ?」

「普通の人にはない力≠持った人のことですねー」

 佐祐理が祐一の質問に答える。

「…学校で聞いたか。それじゃもうひとつ…どうして俺たちは能力者なんだ?」

 その祐一の疑問に、答えられる人は…いない。

「そう言えばどうしてですかねー…」

「私もそんなこと考えたことなかったよ…」

「……」

 

 全員が理由を知らない。ただ、いつの間にか身につき、それを隠していただけらしい。

 

「つまり誰も知らない…在るだけの能力だった、と…」

「そうだね。でもやっぱり人と違うのは隠したかったから、今まで誰にも話したり見せたりしてなかったんだよ」

 まぁ、そうだろな。祐一はそんな風に思う。

 普通、人間は自分にとって未知のモノを見ると恐怖し、ソレを遠ざけようとする。

 

「それにしても、今日の事件は一体なんだったんでしょうね」

 佐祐理の言葉。そしてその言葉を聞いて全員の表情が変わる。

「分からないな。あの男はあゆをどうにか手に入れようとしていたみたいだけど…」

 男はあゆを手に入れようとしていた、これは確実だ。

『【天使悪魔の翼アンバランスウイング】の少女を手に入れられないのは痛いが…致し方あるまい』

 男はそう言って去った。

 【天使悪魔の翼アンバランスウイング】が指すものが、あゆだということ。

 それは分かっているが、一体どんなものなのか、それがどうして必要なのか。

 それが分からない。

 

「【天使悪魔の翼アンバランスウイング】か…。一体何があるんだろうな。このあゆに…」

 そう言ってソファの上で穏やかに眠っているあゆの頭を撫でる。

「分かりませんけど、これからもあんなことがあるかもしれません。気をつけないといけませんね…」

「あぁ…そうだな…」

 

 苦々しく呟く祐一。はっきり言って気分は悪い。

 かなりの疲労状態にあるのも原因のひとつ。

 これは能力を行使しすぎたことからくる疲労。それは感覚から分かっていた。

 自らのエネルギーを使用して発動させるのだから当然と言えば当然だ。

 しかもまだ使い方を熟知していない、目覚めたばかりの力だ。コントロールも今ひとつだ。

 

 そして気分が悪い原因はもうひとつある。

 今まで普通の高校生として生活していたはずなのに、急にこんな状況へと陥ってしまったことだ。

 ただ、いつも通りの生活があったはずなのに、それがいきなり崩壊した。

 そして自分の中に眠っていた、人とは違う力――能力。

 もう、自分は普通の人間とは違う。

 

 そう考えるだけで、気分は悪くなる。

 出来るなら、全てを壊してしまいたくなる。

 

 いっそ、これが夢なら…と。

 

 

 だが、これは現実で、

 その現実は彼らを沈ませる…。

 

 

 

「祐一さん」

 祐一たち全員が何かを考え込むかのように、一言も喋らずにいた時、秋子が話し掛けてきた。

「お話があるので、夕食を食べたら、少し私の部屋に来て貰えませんか?」

 急な話。だが、断る理由も無かった。

「はい、わかりました」

 祐一は、ただ一言、そう言った。

 

「それと、少し出かけてきますので…留守をお願いしますね」

 そう言って秋子は家を出た。

 その顔に浮かんでいたのは、いつもの微笑ではない。

 どこか悲しげな、そして真剣な表情。

 

 

 

(やはり…祐一さんも目覚めたのね…)

 

(【天使】の力も薄れてきています…【悪魔】が侵攻を再開したのは当然ですが…)

 

(子供たちまで巻き込みたくはありませんでした…)

 

 

 秋子が向かう先…

 商店街の一角。

 そこに待つ人。

 

 【天使】と【悪魔】

 

 

 

 

 

 

 運命の歯車は廻り始めている。

 

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