第14話   日 常 を 取 り 戻 す た め に

 

 

 

 夢、だった。

 いま視た≠フは、確かに夢だ。

 空想の、

 幻の、

 ありえはしない、

 

 ただの、夢だ。

 

 なのに…

 

「なんで知ってる…懐かしい感じがするんだ…?」

 重たい体をなんとか起こしながら、今の夢を思い返す。

 

「メタとヴェル…か」

 天使の少年、メタ。

 悪魔の少年、ヴェル。

 それが、今の夢の人物。

 

 そして、

 

俺は確かにメタだった、、、、、、、、、、

 夢の中で、祐一の意識はメタと重なっていた。

 メタの視界で、世界を視ていた。

 そう、夢の中で祐一はメタだった。

 

「天使メタトロンと、悪魔ヴェルフェゴール…」

 

「かつての…親友…」

 

「…始まりにして……最後の………」

 

 ズキン…ッ

 

 唐突に、頭に痛みが走る。

「っ…」

 まるで、それ以上考えるのを拒むかのように、

「なんだってんだよ…」

 まるで、自分自身がソレを知っているかのように、

「たかが夢だろ…」

 まるで、実際に体験したことのように、

「鬱陶しい…」

 記憶の中で蠢いていた。

 

 

 

 

 

「おはようございます…」

 今日は日曜の為、私服に着替えてから降りてみると、やはりそこには秋子がいた。

「おはようございます祐一さん。今日もお早いですね」

 そうでもないですよ、と一言だけ言って席につく。

 

「…昨日の話を聞いて、気持ちは決まりましたか?」

 向かいに座りながら秋子が言った。

「…そうですね。整理がついた、と言えば嘘です」

 俯いたまま、祐一が話し出す。

「天使と悪魔が争って、その後始末は結局俺たち人間まかせ。ハッキリ言えば、ふざけるな、って感じです」

 それを秋子は無言で聞いていく。

「出来れば、普通に毎日を送りたい」

「ですが祐一さん――」

「分かってます。俺には普通の人にはない【能力チカラ】がある…」

 ぐっ、と右の拳を握り締める。

「こんな運命、ぶち壊してでもやらない限り、俺たちの日常≠ヘ戻ってこない」

 握った拳を見つめながら祐一は言葉を紡いでいく。

「戦ったりするのは嫌だ。相手を傷つけたくないとか、そんなことじゃない。ただ、どんどん日常から遠ざかって行くみたいで…」

 ふっ、と拳から力を抜いて、手を開く。

「だけど、みんなを傷つけさせるわけにはいかない。だから…」

 風が…

「俺は、戦います」

 生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、姉さんの子供ですね」

「あら? それって褒め言葉?」

「ふふっ、そういうことにしておいてください…」

 商店街の一角、百花屋の中、そこにふたりの人物が居た。

 

「祐一さん、戦うそうです。この運命と…」

 ひとりは、秋子。そして…

「へぇ…あの子も強くなったものねぇ…」

 その秋子の姉、祐一の母親にあたる人物…相沢夏杞。

 秋子同様、その容姿は一児の母とは思えないほどに若々しい。母親、ではなく、姉と言っても通るかもしれない。

 

「ところで姉さん、動きは掴めましたか?」

「ん〜…そうねぇ…」

 夏杞がわざとらしく考える素振りをする。

「いま掴めてるのは、あいつ等が能力者を集めてるってことくらい」

「理由は…?」

「さぁ? 能力者を集めて戦力強化を図ってるか、その能力を何かに利用しようとしているのか、ただ単にこちら側の戦力を減らすためか、まぁ、理由なんて分からないわね」

 どちらにせよ、不利にあることは変わらない。

 

「ねぇ秋子。どーしてあの子は連絡のひとつもよこさないのかねぇ…」

「祐一さんにも、なにかあるんですよ」

「…例えば?」

「姉さんが嫌いだとか」

 ふふっ、と笑う。

「…まさかとは思うけど…本気で言ってる?」

「冗談ですよ。やはり、心配を掛けたくない、といったところじゃないですか?」

 言いながら、秋子が席を立つ。

 

「あぁ…なーるほど…」

 そして夏杞も同じように席を立ち、店を出る。

 

「でもさぁ…」

 店を出た、その瞬間…場の雰囲気は一変した。

 溢れるのは敵意、そして、明らかな殺意!

 ふたりを取り囲むかのように、展開していた…

 悪魔の【兵隊】が。

 

「私も能力者な訳だし、心配するもしないもないのよね…!」

 

 夏杞が一気に上昇させたエネルギーを地面…一枚一枚貼られたプレート状のタイルに送る!

羽根フェザー!」

 夏杞の声に呼応するかのように、プレートが地面から浮かび上がる。

 まるで…重さを失った、、、、、、かのように。

 

 そして、それよりも一瞬早く、あたり一帯がまるで夜になったかのように、暗く染まった。

 ただ、月はなく、街頭もない。本当の…闇。

 

 そんな中、ぽぅ、っと光を宿したかのように浮かび上がる、十数枚のプレート。

 

「取り敢えず言っとくけど…」

 プレートが、ゆらゆらと空中でゆれる。

 

 

 

 

「雑魚には興味ないのよね…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ秋子、祐一のことよろしくね」

「えぇ。姉さんも、あまり無茶はしないでくださいね。祐一さんも心配しますから…」

 公園の近い通りにふたりはいた。

 さっきまでのことなど、なかったかのような、平然とした顔で。

「あはは…、取り敢えずほどほどにしとくわよ。秋子こそ、無茶しないコトっ」

「分かってますよ。姉さんじゃありませんので」

「…やっぱり、いつか締めるわ」

「お好きなように」

 ふたりの会話は、周りから見ればただの姉妹の会話だ。

 まぁ、母親同士、、、、という点には気づかないかもしれないが。

 

「じゃ、そろそろ行くから」

 また、と軽く手を振りつつ、夏杞は歩いていった。

 

 それを見送り、残った秋子も帰路についた。

「夕食の材料…買って帰りましょうか」

 

 能力者の戦いに身を置きながらも、秋子は自分を決して見失わない。

 それは夏杞とて同じだ。

 

 ふたりは、天使と悪魔のことをよく知っている。

 誰よりも、だ。

 遥か昔から続く、因果の戦い。

 

 その中心にいる。

 

 

 

 

 

 そして、流れは変わりつつある。

 

 

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