第16話 縛 ら れ る 存 在
ほとんど整理できていなかった。
学校での出来事…
有り得るはずのなかった出来事…
だが実際に起きてしまった出来事…
異形 能力 衝撃 先輩 後輩 友人
敵 血 能力者
そして…
天 使 悪 魔 の 翼
すべての
言葉 が繋がっては切れ、繋がっては切れ――と、ひとつにまとまらずにいた。ただ、ただひとつだけ言えるとすれば…
「無関係ではない、ということだけね…」
自宅へとゆっくり歩きながら、香里はひとこと呟き、そして溜息を零した。
そう、自分はもう無関係ではない。いや、もしかしたら最初から関係していたのかもしれない。
他人にはない異端の力…能力を目覚めさせてしまった。
自分の能力――【
衝撃 】まだ完全に熟知できてはいないものの、どんなものなのかは大体分かる。
相沢くんや、あの男のようにエネルギーをカタチ≠ニして生み出すものではなく、川澄先輩のように自分に補助効果を与えるような能力だということ。
具体的には、自分が与えた衝撃をエネルギーを介して増大させる、ということだ。
最初に与えた衝撃と、与えるエネルギー量によってその威力が変わる…。
やろうと思えば、今目の前にある壁や、電柱くらいなら簡単に砕けるだろう。
また、溜息が零れた。
こんな
能力 、手にしたくなかった――そうは言わない。この
能力 は、自分がその時に望んだものだったから。この
能力 を手にしたから、守ることができたのだから。だから…後悔しているわけではない。
ただ…整理がついていない。
能力者の存在、その意味。
今日現れた者、その意味。
天使悪魔の翼 、その意味。
…まるで、バラバラのパズル。組み合わせは存在しているはずなのに、まだピースが足りていない。
すべてを組み合わせるには。まだまだピースを掻き集めなければならないに違いない。
――そんなことを考えているうちに、家へと帰りついた。
ガチャリ、という音を立てて扉が開いた。
「ただい――」
「お帰りなさい、お姉ちゃんっ」
香里が言い切るより早く、響いたのはそんな言葉。
明るく、元気な色を秘めた声だった。
「し、栞?」
その声に香里が驚いたような表情をした。
目の前には妹の栞が、すごくにこにことした表情で、しかも思いっきり普段着で立っていた。
確か、栞は体調不良…しかもかなりの重症だったはず…。
どう考えても、もともと身体の弱い栞が1日で…それも午前中に治ってしまうようなものでは――
「なんか、すっかり治っちゃいました」
香里の思案は一瞬で打ち消されてしまった。
「?? どうしたんですかお姉ちゃん?」
「…まぁ、治ったのならそれに越したことはないけど、ね」
言いつつ栞を横切って、着替えるために自室へと向かおうとして、
…そこに、お姉ちゃ〜っん♪、とか甘えるように言いながら、後ろから抱き付いてきた。
「ちょっと、もう栞っ。離し――― ッ!?」
ド ク ン
言葉が続かなくなってしまったほどの衝撃。
今、確かに感じた鼓動。
身体の中心で感じた、確かな鼓動。
自分と同じ何か≠ェ流れている、その鼓動。
知らないはずなのに、ハッキリと分かる、その鼓動の正体――そして意味。
―――あぁ、そうか。私が能力者なんだから、その妹の栞だって
―――能力者であってもおかしくないわね…
栞の中から感じる、確かな
能力 の鼓動。まだ、目覚めてはいないのだろう。
それは力強く存在を主張してはいるものの、まだまだ深層の域。
できることなら、このまま目覚めないでいて欲しい。
目覚めてしまえば、巻き込まれてしまうことになる。
――こんな、常識離れした、能力者の戦いの渦の中に。
「お姉ちゃん?」
そんなものに栞を巻き込みたくはない。
だから、
「ううん、なんでもないわよ」
笑って、栞に心配を掛けないようにしないといけない。
「それより栞、そろそろ離してくれない? 部屋にもいけないんだけど」
「嫌ですぅ〜」
駄々を捏ねる、というかふざけている感覚でその手を解こうとしない。
「バニラアイス買ってくれるなら離してあげます」
それは一種の脅迫なのだろうか?
「嫌よ。ただでさえ今月は厳しい…じゃなくて今日学校を休んだ子に、そんな冷たくて身体に良いとは言えないモノを買うと思う?」
「わたしのお小遣いからでいいから買ってきて」
栞は、前半部分をしっかりと聞いていた。
「買ってきてくれないと離してあげません」
こうなっては、意地でも離してはくれないだろう。
仕方なく、観念することにした。
「分かったわよ…。買ってきてあげるから、取り敢えず離して」
「はい♪」
にこー、と笑う。
それとは対象的に、はぁ、と香里は溜息をついた。
「じゃあ、着替えてから行ってくるわね」
「お願いします、お姉ちゃん♪」
そう言う栞の表情は、アイスという夢を見る、幸せそうな表情だった。
「栞にはかなわないわね…」
アイスを買い、家へと戻りながら呟いた。
手に持つビニール袋の中にはアイスがふたつ。結局、自分の分まで買ってしまった。
妹があれだけアイス好きなのだから、自分にもその傾向があってもおかしくない、と勝手に納得しておく。
「それにしても…栞まで能力を持っているなんて…」
能力、人にはない異端の力。
それが自分にも、そして妹にも存在している。
「異端の者は、異端の者同士引かれ合う――なんて言わないわよね…」
それこそどこぞの漫画やゲームみたいだ。
そんなこと、現実世界にあってはいけない。だからこそのゲームの世界なのに。
なのに…
どうして…
本当にそれ≠ヘ現実にあってしまうのだろう。
「しおりッ!」
家の中に入った瞬間、アイスの入ったビニール袋は手から零れ落ちた。
「遅かったな。だが、待っていただけの価値はある。…そうだろう?」
見たこともない男が、栞を小脇に抱くようにして抱えていた。
「栞を離してっ!」
怒りを露にして、香里が叫ぶ。
だが、
「それは出来ない相談だ。お前にも、そして、この小娘にも用があるんでな」
全身をすっぽりと包むようなコートの中に右手を伸ばし、ゆっくりと、それを引き抜いた。
「っ!?」
それを見た瞬間、香里の身体が強張った。
男の手に握られていたものは、ただ殺すためだけに造られたモノ――拳銃だった。
「変な気は起こさんことだ。お前がどんな能力を持っているかは知らんが…能力を発動させるよりも早く、この小娘の頭に風穴を開けるぞ」
ゴリッ、と拳銃を栞の頭に押し付ける。
知っている。この男、自分が能力者だということを知っている。
「…っ、あなた、わたしたちに何の用なの…?」
今にも駆け出そうとする自分を押さえつけながら香里が口を開いた。
「なに、ついてきて貰えればそれでいい。少なくとも、私はそれだけしか言われていないのでな」
「拒否…したら?」
「そのときは殺してでも持っていくだけだ」
ゾク…ッ、と背中に冷たいものが流れた。
――本気だ。
それは直感で感じた。
この男たちは、自分たちが必要なだけだ。生きていようと、生きていまいと、関係ない。
必要なのは、能力者、というその意味だけだ。
抗うことは…できない。
栞はまだ生きている。
それはこの男がまだ慈悲を持っていたからだろう。
冷徹な者なら、とっくに殺して持ち帰っているに違いない。
…まだ、運がいいほうなのだ。
「さぁ、どうする? わずかな可能性に賭けるか?」
賭け…栞を助けられるかどうかの賭け。
その確立は1%にも満たない。一歩動けば、その瞬間に風穴が開いている。
――ダメだ。
「…分かったわ、ついて行く。でも…その子の安全だけは保障してくれるかしら…?」
「…いいだろう。保障する」
香里と栞は消える。
男も消える。
そこに残ったのは、たったひとつの、
たったひとつの言葉…
―― ごめんね、名雪 ――
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