第18話   火 と 盾 と 力

 

 

 

――ここか。

 

 闇に溶けるような、声が響いた。

 そこにあるのは6つの影。

 19の内の、能力者拿捕の為の部隊――それがここにいる。

 

――出来れば生きて捕らえろ、とのことだ。

 

――出来れば…だがな。

 

 その内の、最も輪郭のハッキリした影…

 その影が他の影に指示を与えていく。

 その内容はかなり戦略的だ。完全に潰す≠アとを前提とした、戦略だ。

 

 この影たちが立っているのは、ある一軒の家の正面。

 おそらく、この家の中に能力者がいるのだろう。

 …いや、いるのだ。

 それは確信。

 

 能力者は、能力者の存在が分かる。

 

 気配というより、能力チカラの鼓動を、身体の芯で感じてしまうのだ。

 

 

――行けッ!

 

 その声に、ふたつの影が跳ぶ。

 一気、2階まで。

 2階から浸入するつもりなのだ。

 正面突破よりリスクが少ないのも当然の理由。

 そして、上からと下からで挟み撃ちに追い込むことも出来る。

 だからこその判断だ。

 だが…それは2階からの浸入が成功しなければ、

 

 ―――何ら意味を持たない

 

 ボンッという、小さな爆発音。そして…

 炎が巻き起こった。跳び上がった、そのふたつの影から!

 

「な…っ!?」

 

 闇に溶けるような声ではない、今度はハッキリした声≠ェ発せられた。

 

 炎が踊る。闇の中、唯一その存在を主張するかのように。

 燃え上がる。黒い影を焼き尽くす為に…!

 

 タン…ッ

 小さな、とても小さな踏み切り音。

 だが、それに反応した影が、その方向――先程、ふたつの影が飛び込もうとした窓の方向を見据える。

 ―――ふたり。

 ふたつの人影が、窓から飛び降りるために踏み切ったトコロだった。

 

「逃がすなッ」

 男が叫ぶ。――そう、それは男だった。

 闇の中では他の影に交ざり、分からなかったが、燃える炎に照らされ、その全貌が明らかになっていたのだ。

 黒いコートに身を包んだ男が、指揮していたのだ。

 

 男の言葉に、黒い人型が飛び掛かる。

 …が、

 

 パキィィン

 

 触れることも出来ず、何かにぶつかったかのように弾かれた。

 落下する黒い人型とは対象に、そのふたりは軽やかに着地した。

 そして、

 

「あんたたち何者よぅ!」

 開口一番に、金の髪の少女が言った。

 

「真琴、そんなことを聞いても無駄です。今は此処を離れなければ…」

 赤髪の少女――美汐が、もうひとりの少女――真琴に小声で話しかける。

「こんなやつら、ここでやっつけちゃえばいいじゃないっ」

「駄目です。ここでは周りの家にまで被害が出てしまうかもしれません」

 美汐の言うことは、まったくもって正論だ。

 最悪、周りの家すべてに被害が及ぶ。下手をすれば、怪我人、死者までもが――

 

 だからこそ、一刻も早くここを離れ、人気の少ない場所へ移動しなけばならないのだ。

 

 そんな、思案を繰り広げていると、唐突に、人型が襲い掛かってきた。

「っ!?」

 

 パキィン

 

 同じように、美汐が【障壁】の能力を展開させて弾き返すと、

「真琴ッ」

 叫び、その意図を感じたのか真琴が力強く頷く。

 

 ――ボゥ…

 

 そんな、音と共に、炎が、宿った。 …真琴の、その両手に!

 

「【炎】の能力か…!」

 男が口にした、【炎】の能力。それは、文字通り――紅き炎を躍らせる。

 古来より、多くを生み、そして奪ってきた炎、

 それが、真琴の能力。

 

 チリン、という鈴の音を残し、真琴の腕が上がる。

 両手を硬く握り締め、地面に垂直に振りかぶる。

 そして、

 

「えぇぇーいッ!」

 

 全力で、そのまま地面へと叩き下ろした!

 

 ――爆発!

 

 炎が、一気に溢れ、広がる。

 それは黒煙を纏い、視野を埋めていく。

 煙幕、という表現が、もっとも分かりやすいのであろうか。

 地面を走った炎が、黒煙を巻き上げ、相手側の視界を奪ったのだ。

 

 だが、そんな煙幕もほんの数十秒しか効果を持続できない。

 …そんなことは分かっている。

 今必要なことは、この場を離れるための、そのキッカケなのだ。

 

「…くっ、追えッ」

 

 視界が戻ったと同時に、男が叫ぶ。

 視界が奪われてから、視界が戻るまでには、数十秒の時間しかなかった。

 が、すでにふたりの姿は目視できない。

 能力者は、身体能力を飛躍的に向上させられる。そのために、短時間でかなりの距離をあけられたのだ。

 だが、追えないと言うわけではない。

 感じ取れるのだ。その能力者の、鼓動を。

 追わなければならないのだろう。

 

 それが、この男に課せられたコトだから。

 

 

 

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