第22話   目 覚 め る 深 紅

 

 

 

 身体が動かない。

 指先すらも反応してくれない。

 全身が痛い。

 自分が生きているということを放棄したくなるほどの痛み。

 全身の筋肉が、骨格が、全てが叫びを上げる。

 

 あの石の人形に投げ飛ばされ、地面に叩き付けられ、あれから意識が霞んで来ている。だが、感覚だけがやけに敏感で覚めてしまう。

 霞み、覚める。その繰り返しで気が狂いそうになる。

 

 悪魔の少年が、名雪に近づいているのが分かった。

 目で見たわけではない。感覚で、何となく分かった。

 

 逃げろ、そう言いたいのに口すらも動いてくれない。

 逃げろ、心で叫ぶ。

 だが、名雪は動かず、少年はゆっくりと、それでいて確実に近づいていく。

 

――まったく…面白くない。人に期待だけさせておいて結局…面白くない。

 

 そんな言葉が聞こえた。

 その声を聞いて、心臓が、どくん、と鳴った。

 何か、言いようのない感情が湧きあがってくる。

 その感情が何なのか分かっているのに、それを認めてはいけない気がした。

 それを認めたら――自分はきっとなくなってしまう。

 

認めろよ

 

 それは声。

 聞いたことのある、声。

 外からの声ではなく、内からの声。

 その声は深く響き、身体の中を駆け巡る。重く、苦しい痛みを、さらに上回る干渉。

 …何なんだ、お前。

 内への問い。

 返答などない、と思いながらの問いだったが答えが返ってきた。

貴様が内包せしモノ、と言っておこうか

 …どういう、ことだ?

 疑問が、また新たな疑問へと変化する。

 自分の中に、また違うモノが居る。そう、声は告げた。

 貴様も存外愚かだな。…さぁ、俺を認めろ

 認めろ――その言葉が、深く、染み込んでいく。内でどす黒いモノが脈動をはじめる。

 ダメだ。認めてはいけない。

愚か、貴様は気付いている。さぁ、俺を認めろ、開放しろッ

 ソレは今にも気が狂ってしまいそうな勢いで要求の意を放つ。

開放しろッ解き放てッ認めろッ――今すぐにッ!

 ぶわっ、と視えない視界に黒い闇が広がった。

 大きくて、激しくて、燃え滾っていて、それでいて寒々しい闇。

 その闇が、身体を侵食していく。

 どくん、どくん、どくん―――

 心音が高まっていく。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い―――

 自分が自分でなくなる。

 すべてが壊れる。

 

 イタい、サムい、コワい、チギれる、カラダが、ココロが、スベテが、キえる。

 

 

 

 

 

 それは、何よりも大きく、何よりも魅力的な、絶対的な、干渉。

 

 

 

 

  楽 に な れ よ 

 

 

 

 

 

 

 ドン、という空気の弾ける音。

 その音に名雪に手を伸ばしていた悪魔の少年の手が止まった。

 驚き、振り返ったそこには、

 

 相沢祐一が立っていた。

 

 黒き風を纏いながら。

 

 

 

 

 

 ―――紅の翼をはためかせて。

 

 

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