第25話 汝 に 闇 来 た れ
祐一が疾る。その速度は凄まじい。10メートル程あった距離を詰めるのに3秒とかからないだろう。
祐一目掛けて巨腕が振り上げられる。それを見て腕を二振り――人形の両腕を胴体から切り離した。
跳躍。足をバネにして一気に、4メートル強あった人形よりさらに上まで跳び上がる。眼下に立つ人形をその視界に捕らえると、能力を両手に収束させ、そのままに頭部から殴りつける!
その動作―――殴る、という動作に違いはないが、その本質はまったくもって異質だった。
祐一の腕は、まったく触れていない。だからと言って避けられたわけではない。
消えているのだ。祐一が触れようとしている、その箇所が――!
頭部から入った祐一の能力は、人形を縦に裂いていく。上から下へ。一直線に、左右均等に分断していく。
再構成すらも追いつかない。バチバチという紫電の光を無視して祐一の能力が人形を引き裂いていく。
――そして、ものの数秒で、人形はふたつに分断された――
タン、と祐一が軽やかに着地する。顔は哂ったままだ。
祐一の背後には、両腕と両半身に分けられた人形。それがバチバチと紫電を纏わせながらゆっくりと再構成されていく。
―――螺旋―――――――
そんな中、呟きは、祐一から発せられた。
刹那、何よりも黒き風が、螺旋を以て一瞬にして巻き起こった。
それは大きく、高く舞い起こる。まるで、全てを消去せんとするかのように。そう――
祐一の――背後で。
祐一の言った螺旋、それは風だ。堕天使の力である消滅を促す風を螺旋状に開放する。
螺旋はソレを包むように広がり、そして上へ上へと舞い上がる。
言うなれば竜巻。
すべてを巻き込む竜巻は、ここではすべてを消し去った。
パチリ、と最後の紫電が走り、それっきり反応がなくなった。
送り続けていたエネルギーが逆流して戻ってくる。それに伴う痛みが、全身を駆け抜けた。
「痛ぅ…ッ」
のんびりとやっている暇は無い。あまり信じることはしたくないのだが、おそらくそうなのだろう。
エネルギーの逆流が起こったということは、それを伝える先が無くなった。――そうとしか考えられないのだ。
無くなったのだ。エネルギーの向かう先が。
そう――あの巨大な人形が。
それよりも驚異的なのは祐一のエネルギー内包量だ。
あれだけ能力を酷使しておきながら、最後のあの螺旋を軽々と発生させて見せたのだ。
まるで、無限にエネルギーが尽きないかのよう。
あれではまるで―――
「化け物が――!」
そんな悪魔の少年の言葉に、
「――化け物。化け物か。あぁ、確かにそれは間違いじゃない」
と、背後から声がかかった。
「っ!?」
慌てて前に跳びつつ後ろへ向き直る。
「くくく、悪魔が何をそんなに怯えている?」
「…な、んだと――!」
「
リヴィル 、お前も廃れたな」「な――ッ!?」
リヴィル。祐一はこの悪魔の少年をそう呼んだ。名乗ってもいないはずの相手の名を、ハッキリと。
「どうして名前を知っている、という顔だな。くくく・・・分からないか?」
分かるはずがない。祐一とリヴィルが顔を合わせるのは、今回が初めてなのだ。
それに悪魔は大っぴらに人間と干渉してきていない。人間に見つかれば、その場で殺す。自分たちの存在はそうやって隠してきたのだから。
「天使が堕ちる過程を知らないわけではないだろう?
こんな、天使の力にも覚醒しきれていない奴が、いきなり堕天使へと成り得ると思うか?…そんなはずはないだろう」
「お前、まさか―――!」
リヴィルの瞳が、驚愕の色に染まる。
もし、こいつの言うことが本当なら、こいつの力はやはり――!
「その
まさか 、だ」
ゾクリ、と冷たいモノがリヴィルの背中に流れる。
祐一の表情には歪んだ笑みが張り付いていた。どうして、こんな、邪悪な笑みを。
―――逃げろ。
リヴィルの思考が、その言葉ひとつに染め上げられていく。
―――逃げろ。
バサリ。翼を広げ、残り少ないエネルギーを注ぎ込む。
―――逃げろ。
すべてのエネルギーを飛翔のために変換。翼へと伝導させる。
―――今すぐに―――!
「逃がすかよ」
刹那の時。
飛び上がったリヴィルへと、黒の奔流が押し寄せた。
それも一瞬。
瞬きする、次の一瞬でその奔流は消失していた。
―――リヴィルと言う名の悪魔を飲み込んで。
「―――彷徨える魂、汝に何よりも深い闇、来たれ―――」
胸の前で十字を切る祐一の顔は、何よりも愉しそうに、哂っていた―――
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