第33話 乱 入 者
屈めていた膝に溜め込んでいた爆発力を一気に解放し、一瞬で北川へと肉薄する。
北川がすかさず反応し、左手のショットガンを捨て、右手のショットガンを抱え込むように保持し、撃った。
が、ばら撒かれた散弾は、そのことごとくを【消滅】させられる。
祐一の周囲を【黒ノ風】が取り巻く。
それは壁、結界だ。触れようとするモノ、すべてを消し去る絶対不可侵の領域を創り出す。
肉薄する過程で、祐一は【鎌鼬】を幾重にか放っている。当然、それはすべて【歪曲】されかわせれてしまうのだが、そんなことは承知の上だ。
祐一が欲しかったのは隙だ。
いかに【黒ノ風】とはいえ、【歪曲】には敵わない。あらゆる軌道を曲げるその能力に例外はないのだ。
ただ普通に放っただけならば曲げられ、己のエネルギーを無駄に消費するだけになってしまう。ただでさえ多大なエネルギーを消費する能力なのだから、それは避けたいところだ。
確実に
当てる なら打撃戦に持っていかなければならない。確かに打撃であろうと軌道、流れはある。【歪曲】の影響は免れないが、【風】によって加速した打撃は完全にとは言わないが入る。
ならばそれをやってやればいい。
【風】は相沢祐一の能力だ。だが、同じ肉体を共有し、さらにヤツと回路を繋げてやれば情報はいくらでも入る。―――使うのは容易だ。
だから祐一は【鎌鼬】を放った。エネルギーの使用量は【黒ノ風】に比べ格段に少なく、ダメージはそれでいて大きい。
当然北川はそれを避けるか、曲げるかするだろう。そしてそこに生じるのは隙だ。
その一瞬の隙で懐に入ってやれば【風】で加速した打撃が突き刺さる!
「ふッ」
鋭い呼気と共に繰り出された拳は【風】によって加速され、その威力を跳ね上げる。
まともに当たってしまえばかなりのダメージになることは目に見えている。当然、北川は曲げた。
が、それでも曲げきれるものではない。それは既に証明済みだ。
服を掠めるようにして拳が過ぎる。瞬間、その触れた部分が消滅した。
【風】により加速され強化された打撃に、【黒ノ風】を載せる―――ということをやってのけているのだ。
「ち、ぃ…ッ」
北川の顔に焦りが浮かぶ。今は何とか致命的なモノは入っていないが、いつ入るか分からないという状況なのだ。
もし【黒ノ風】を纏った打撃が一撃でもクリーンヒットすれば、その瞬間負けが決まる。
どこを消されても、削られても同じだ。そうなってしまえば動きが鈍るのは必須。避けることなど不可能になってしまう。
それが死に繋がるのも明白だ。
一瞬にして【練成】する。今は何としても距離を取らなければならない。
創り出したモノ―――手榴弾のピンを抜き、自分のすぐ眼前に叩き落す。瞬間、膨大な炎と閃光が膨れ上がった!
眼前で大爆発が起きれば、ただでは済まない。全身がズタズタになる可能性のほうが高いくらいだ。
が、その中心にいながらも北川は無傷だった。
これも【歪曲】の能力ゆえ、だ。
炎と爆風を【歪曲】で自分に当たらないように曲げた。よって被害はない。ただ、その多大な熱量と爆発力を曲げた為に、エネルギーはかなり持っていかれたが。
「どうだ…!?」
モウモウと上がる煙の中から飛び出し、距離をとる。
これで倒れればそれが一番いい。だが、倒れていなかったとしても距離はとれた。反撃はできる。
「ッ!」
一瞬にして、煙が霧散した。
そしてその中心には祐一がいる。
傷はある。が、そう大したものではないようだ。爆発による傷、というよりは、能力の余波による傷か。
【黒ノ風】は己にすら干渉する諸刃の剱だ。あまりにも多用すれば自身は崩壊する。
―――が、今の祐一にはそんなことはどうでもよかった。
目の前には敵がいる。そして、敵ならば殲滅するのみ。
今の爆発でほとんど傷を負っていなかった事実に驚きを隠せない北川に、祐一が走る。
走った軌道に紅い輝閃が引かれ、それを引いた祐一はまるで紅い閃光。
閃光は狂気と成り北川に襲い掛かった。
「このッ」
北川が両手にサブマシンガンを【練成】し、撃った。
秒速何発というバカげた勢いで弾丸がばら撒かれる。だが、今の祐一にそんなものは通用しない。
「甘いんだよ―――」
放たれた【黒ノ風】が尽く弾丸を消していく。実体を持つ限り、黒ノ風にかなうものはない。存在を消し去る能力を前に、銃器などはその意味を何ら持たないのだ。
同類。それは何て愚かな間違いだったのか。
北川は悔やんでいた。
祐一が堕天使だという情報はなかった。水瀬家を襲撃した連中が全て返り討ちにあったということは知っていたが、それが祐一のやったことなどとは知る由もない。話に聞く強さを誇る、秋子がやったのだろう…と勝手に決め込んでいた。
それに、自らの翼も真紅。堕天使とあの空間でも呼ばれていたのだ。祐一が堕天使と知っても恐怖などなかった。同じ基盤に乗っただけ。まだ自分の方が強い―――と。
だが現実はまったく違った。
同じ堕天使? ――否。ヤツは化け物だ。敵と見なしたモノは徹底的に排除する。
同じ基盤の上? ――否。基盤など、存在していないに等しい。圧倒的な力の差がそこにはあった。
目の前まで祐一が肉薄する。―――その刹那、視界から祐一が消失した。
「下――!?」
気付いた時には遅い。【歪曲】を展開したが、横に払う軌道を曲げることが出来るのは上下の二方向のみ。
祐一が瞬間に放った足払いは横の軌道―――曲げる意味などほとんど存在しなかった。
鋭い払いが閃いた。
北川の頭が理解した時にはすでに自分の身体は地に横たわっている。そして、視界に映るのは北川に馬乗りになり、右手を振り上げている祐一の姿。
右手にエネルギーが収束し、それが黒を生み出す。まさしくそれは消滅の風。
この至近距離、しかも身体を押さえつけられ動くことも出来ない。
―――ヤバイ!
ここで何を練成しようと、黒ノ風のほうが圧倒的に速い。練成した瞬間には存在が抹消されてしまうのも目に見えている。
まさしく絶体絶命。
「―――格の違い、ってのが分かったか? …クソガキ」
吐き捨て、祐一のその眼に殺意が宿った。
右腕が引かれる。それを解き放てば瞬間命も消える。
絶対的な命の危機に瀕し、北川の思考は荒れていく。
ここで、殺される、わけには、いかない。
だが、そんな北川の思考など関係ない。祐一はニヤリと笑みを浮かべ、引き絞った右手を解きはなった。
―――否、解き放とうとして、行動を止めるしかなかった。
空気が震えるほどの轟音が響いた。
北川の手元、ではない。祐一と北川のいる箇所よりも遠方。10数メートルの遠方からの銃声。
その銃声と共に吐き出された弾丸が、空気を切り裂き白銀の閃光を引き、迫った。
それを、一瞬の危機感知能力で判断し、消し去ろうと右手を振る。
瞬間、解き放たれる黒ノ風。
あらゆる物質を消し去るこの風に消せないものはない。
―――が、それは一瞬で消えようとはしなかった!
「ち、ぃ」
白銀の閃光は黒ノ風を切り裂き、奔る。消せないわけではない。ただ、抵抗がある。
黒ノ風とは言え、能力のエネルギーには違いない。エネルギーとエネルギーは相反するもの。
黒ノ風に及ばなくても、多くのエネルギーがあればそれは相反し、相殺しあう。
最終的に消し去ることは出来たが、それでもかなりのエネルギーを消費してしまった。
咄嗟に北川から離れ、弾丸の跳んできた方向を直視する。
そこには。
白銀の
自動拳銃 を構える、ひとりの男が立っていた。
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