第40話   中 心 地 へ

 

 

 

 異変に気付いたのは、そのすぐ後だった。

 

 まず窓の外を見て、雪が降ってきたことを知った。

 最初はそれがどれだけの異変かなんて気付かなかった。

 確かに、この時期の雪は珍しい。もう春になる時期だ。それでも雪が降ることはあるから、別にこれは大したことではない。

 

―――そう、問題はそこではないのだ。

 

 雪が降っていること自体に問題があるのではない。

 問題があるのは…その雪自体だ。

 

 凍った。

 凍りついた。

 

 一瞬の出来事だった。

 窓の外で降っていた雪がひらり、と窓へ辿り着いた。

 窓があるのだから、当然雪は家の中までには入ってこれない。よって、接触するのはその窓だ。

 

「―――え?」

 

 一瞬で、雪の触れた所を中心に窓が凍りついた。

 段々と凍っていたわけではなく、一瞬で、雪が触れた所から。

 

――――――ドクン

 

 その瞬間感じられたのはエネルギー。

 微弱だが、確実な能力の…。

 

「能力だって言うんですか、コレが…!?」

 驚愕。

 無理もない。何せ、この雪が降っている範囲はかなり広い。

 広範囲に影響する能力、というものも確かにあるだろう。だが、だからと言ってこれは異常すぎる。

 広範囲すぎて…強力すぎた。

 凍結を促す雪? 触れただけで凍りつかせる雪なんて異常すぎる。そんなものを広範囲に渡って広げられるなど―――有り得ない。

 いや、実際に目の前で起きているのだから、有り得ないとは言えないが…それがかなり強力な能力者でない限りは無理だと言うことくらいは言わなくても分かる。

 

「……」

 祐一の手を握っていた、その手を離し、立ち上がる。

 佐祐理からは後姿の為に名雪の表情は掴めない。決心は出来たようだったが、だからと言っても泣いているかもしれない。

 そんな、風に思っていると、

「―――行きましょう!」

 振り返り、名雪が力強く言う。

「…ぁ」

 そして、その表情は―――心に決着をつけて、ハッキリとしていた。

 

「そうですね、行きましょう!」

 佐祐理も強く頷き、廊下へと通じる扉を開く。

「…行ってくるね祐一。わたしは、わたしの出来ることをしてくるよ」

 最後に一度だけ祐一へと向き直り、そう告げて。

 

 名雪は部屋を飛び出した。

 

 

 

 佐祐理と名雪が家を出ようとしたところで、後ろから声がかかった。

「ふたりとも」

 その声に振り返ると、そこにいたのはやはり秋子だった。

 何を言おうというのだろうか。

 止めるつもりなのだろうか。

 そんなことを考えていると、秋子が頬に手を当て、穏やかな微笑を浮かべて。

「いってらっしゃい。気をつけて」

「―――うん、行ってきます!」

「行ってきますね、秋子さん」

 秋子の言葉にハッキリと返し、そして今度こそ家を出た。

 

「舞!」

 外に出ると、そこには鞘に収まった剣を携えた舞の姿があった。

「―――遅い」

 そう言って、すぐに走り出す。

「あ、待ってよー舞ー」

 後に続くように名雪と佐祐理も走り出す。

 

 雪は降り続いていて、世界は白一色。

 そこは幻想的な雪の世界などではなく―――死と停滞を彷彿とさせる氷の世界。

 目に付くもの全てが凍り付いていた。

 道も、家も。そして―――人さえも。

 

「酷い…」

 凍り付いていると言っても、死んでいる人はまだいないようだ。

 名雪達は能力者であるため、雪とは言え能力のエネルギーには変わりないコレには耐性がある。エネルギーに守られている為に凍りつくことはない。

 しかし普通の人にそれはないのだ。

 この雪は触れたものを凍らせる。つまり凍るのは表面で、内面ではない。

 だから人が凍っていると言ってもまず凍るのは服だ。

 全身が凍っている人はいない。

 それに、異変に気付いた人はすぐに家の中に逃げ込んだのか、実際に人は少なかった。

 だが、だからと言って放置して置けるものではない。

 表面しか凍らないとは言え時間が経てば経つほど生きていられる可能性は減ってしまうのだ。

 氷は体温を奪う。

 体温が奪われ続け、最後には―――死に至るだろう。

 

 だからこそ、急ぐ。

 

 

 この雪の元凶、その能力者の元。

 

 

 

 

 

―――――中心地へ!

 

 

 

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