第41話   戦 闘 区 域

 

 

 

「―――【閃】!」

 壮絶な気合と共に振り抜かれた刃が白銀の軌跡を残し、解き放たれたエネルギーが離れた魔物を一刀のもとに斬り捨てる。

 続けざまに二閃、三閃と刃が閃き、迫りくる魔物を切り裂いていく。

 

 中心地へと近づくにつれ、魔物―――悪魔側の使い魔―――の数が増えていった。

 今は少しでも早く中心地へ辿り着きたいところだが、だからと言って魔物を放置しておけるわけもない。目に入った魔物は残すことなく殲滅させる。

 そうしなければ被害はさらに拡大する。

 悪魔ならまだしも、魔物には理性というものが薄い。見かけたモノを全て破壊しようとしているのかと思わせるほどに暴れまわっている。

 

「っ!」

 一気に魔物の内の一体の懐に潜り込み、抜け際に刃を閃かせる。

 それで終わり。

 次の瞬間には一番近いところにいた魔物を逆袈裟に斬っている。

 後ろに気配。

 右手の刃をくるり、と回し逆手に持つと、それをそのまま後ろに突き出す。

 どぶり、という肉を貫く感触を感じ、そのまま右手を捻り横へと振りぬく。

 

「これで―――」

 地を力強く蹴り、目の前の、最後の魔物に肉薄する。

 魔物は反応しきれない。慌てながらも迎え撃とうと右手を振り上げる。

―――だが、それでは遅すぎる。

「―――終わり」

 斬、と刃音を残し、魔物の左脇腹から右肩へと一筋の線が走る。

  ギィ

 と魔物が人に理解できない声を上げ、走った線を境界にしてずるり、とずれた。

 

 ざぁぁ、と白い雪を巻く風が吹き抜け、切り裂かれた魔物たちは灰になって散っていく。

 

「まいーーっ」

 後ろから聞こえた声に振り返ると、佐佑理と名雪が走ってくるのが見えた。

「佐佑理」

「舞、大丈夫だった?」

「佐佑理は…?」

「佐佑理? 佐佑理は大丈夫だよ」

「そう…」

 

 佐佑理の言葉に舞は安心し、そして再びこの雪の中心地であろう方向へ向き直る。

 相変わらず、雪は降り続いている。

 中心地はもはや目の前だ。やはり―――この学校なのだろう。

 

「ま、舞さん!」

「!?」

 名雪が悲鳴に近い声を上げ、それに舞が反応する。名雪が指す方向を見て、驚愕する。

 

―――なんて、数。

 

 学校の門から出てきた魔物の数は十や二十ではない。それ以上だ。

 あのリヴィルが使っていたのと同じような土人形ばかりだが、数が数だ。

「名雪はここにいて」

「あ、え…」

「大丈夫ですよー。佐祐理も舞も強いですからっ」

 舞の言葉と、笑顔を向ける佐祐理に頷くしか出来ない。

 名雪の能力は【復元】だ。戦闘能力ではない。確かに能力者ゆえに身体能力は上がっている。だが、それが通用するのは相手が人間だったらの話。そうでない、今のような土人形―――悪魔側の使い魔には通用しない。ただの壊れにくい的になってしまう。

「―――行く」

 エネルギーを活性化させ、舞が跳び出した。

 それに続くように佐祐理もエネルギーを全身に行き渡らせると【加速】を発動させ、駆ける。

 そんなふたりを見ながら名雪は、

「―――――わたしは」

 なにができるの、と呟いた。

 

 

「いきますよーっ」

 一気に土人形の懐に入り込むと、【加速】を発動させ腕力を格段に引き上げ、拳を打ち込む。

 ドズン、と重い衝撃が土人形の腹部に走り、そのまま打ち貫いた。

 腹部を貫いた土人形を、そのまま円運動に乗せて投げる!

 

 ごしゃり

 

 と音を立てて、4体ほどの土人形が折り重なる。

 動きが止まった。―――当然、それを見逃すはずがない。

 

「閃―――【陣】ッ!」

 舞が居合いの構えから剣を降り抜いた。

 瞬間、キィンという甲高い音を後に引き【断裂】のエネルギーが横一文字に奔る。

 【断裂】のエネルギーに接触したものは物理特性に関係なく切り裂かれる。よって、当たり前のように折り重なっていた土人形たちは纏めて両断された。

 

 それを目で確認するより早く舞は駆け出す。

 数が多いのだからちまちまやっている暇はない。

 一気に懐に飛び込んでは刃を一閃。【断裂】を纏った刃により切り裂かれた土人形はそれだけでただの土へと帰す。

 

―――流れるように。

 

 次々、次々に土人形が切り裂かれていく。その動きはまるで剣舞。

 一閃、また一閃と刃が閃くたびに土人形はただの土へ。その動きには無駄がなく、確かな踏み込みは既に剣の間合い。

「はぁぁぁッ!」

 キィンと刃が鳴り、放たれた【断裂】は直線上の土人形を纏めて切り裂いていく。

 

 佐祐理も負けてはいない。

 舞ほど攻撃能力が高いわけではないが、その圧倒的加速力により舞の援護にまわっている。

 如何に舞が優れた攻撃能力を持っているとしても、どうしても隙は生まれるものだ。特に攻撃の直後などは隙が生じ易い。

 そこを佐祐理がカバーしている。

 舞が【閃】を放ったところを、後ろから襲い掛かる土人形。

 それを【加速】で一気に距離を詰めた佐祐理がその勢いに、更に脚力を上げたまわし蹴りを見舞い、粉砕した。

 

 ザリ、と一度止まり、舞と佐祐理が背中を合わせるようして構える。

 ふたりに言葉はない。

 ただ、こくり、と両者が頷き、その刹那には爆発的な瞬発力でお互いが逆方向に跳んでいる。

 

 そこからはふたりの猛攻だった。

 

 奔る刃が空気ごとすべてを切り裂き、繰り出される打撃は一撃のもとに粉砕する。

 互いが互いの隙を埋めるように、呼吸を完璧に合わせた舞踏の中。

 その舞踏の周りを踊る土人形は、その尽くを粉砕されていく。

 

 土人形たちの動きは比較的に遅い。

 通常の人よりは上だが、能力者の段階で見れば下の下。

 当然、そんな動きではふたりを捉えることは出来ない。

 何も出来ないままに、どんどんとその数が減っていく。はじめはあれほどに多かった土人形たちも、既に数えられる域だ。

 

 佐祐理が駆ける。

 【加速】で跳ね上がった脚力から繰り出されるまわし蹴りが、土人形の胴体を打ち砕いた。

 次の瞬間には身体を沈め、身体を回転させるようにして真後ろの土人形の足を払い、

「えーいっ」

 前のめりに倒れてくるところに膝を叩き込む。

 そこに飛び掛ってくる別の土人形。

 佐祐理が反応できるタイミングではないが、それでも佐祐理は怯まない。

 

 ガキン

 

 と音を立てて土人形の動きが止められた。

 真正面から一振りの剣で動きを押さえたのは舞。

 佐祐理は舞を信用していた。それ故に戦える。だからこそ、怯まなかった。

「ふっ」

 舞が呼気と共に土人形を弾き飛ばし、相手の動きが鈍った瞬間には刃を奔らせている。

 両断。胴を中心として上下にふたつ。舞が奔らせた斬閃は横薙ぎに土人形の身体を分断していた。

 

 ふたりが同時に地を蹴り、疾駆する。

 残るは僅か二体のみ。互いが一体ずつ、真正面から向かい行く。

 そんなふたりを迎え撃とうと、当然のように二体の土人形は体勢を低く構えた。すぐにでも飛び出せる姿勢。その両足に溜め込んだ爆発力を解放すれば女の華奢な身体など簡単に粉砕できるに違いない。

 距離が詰まる。

 その距離僅か5メートル弱。真正面から攻めてくるふたりに対し、土人形が跳んだ。

 まるで足裏で爆発が起きたかと思わせるほどの加速。右手を振りかぶり、正面から突進する。

―――だが。

 その瞬間には既にふたりとも上へと跳んでいる。

 ついさっきまで自分がいたポイントを土人形が抜ける。

 そのタイミングを狙って。

 佐祐理が自分の頭を下にして土人形の頭を両手で掴む。そしてそのまま跳躍の勢いと、【加速】された腕力にモノを言わせてぐるり、と空中で一回転する。遠心力の力まで加えて相手を持ち上げ、そのまま回転の勢いのままに自分が着地すると同時に地面へと叩きつける!

 

 ぐしゃり

 

 と潰れる音。頭を掴まれ、空中での回転の勢いのままに地面へと叩きつけられた土人形は、頭部を潰されて失い、その動きを完全に停止させた。

 

「あははーっ。まだまだですねーっ」

 

 

 

 土人形が自分にぶつかる寸前で上へと跳んだ。

 瞬間、刃が閃く。

 頭を下にして手にした刃を縦に奔らせる。斬、という刃音。跳んで相手を避け、その相手の背中が見えた瞬間には斬閃が奔っていた。

 土人形を背から縦に両断。頭を下にしていた身体は剣を振るう勢いで強引に足が下になるように回転させ、着地する。

 その、着地した後ろで。

 土人形は身体の中心に走った一筋のラインを境に、左右均等に切り離される。

 

 ずるり

 

 と縦にずれ、崩れ行く土人形に一瞥もくれず、

 

「―――数だけで、私たちには勝てない…」

 

 舞は呟いた。

 

 

 

 

 

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