第56話   白 銀 を 携 え

 

 

 

「…どうやら、本当だったようだな」

 視線を鋭くさせ、呟くように言葉を紡ぐ。

「人為的に創り出された魔物…それに関連する悪魔の施設、か」

 じゃり、と一歩足を踏み出した。

 

 目の前には研究施設。

 美汐と真琴が潜入した、あの研究施設だ。

 夜も更け、異界と化した世界で…量産された魔物共は飢えた獣のように活動を始めていた。

「…まさかそれだけの数で僕を止めるつもりかい?」

 正面から入ろうとしたところで足を止め、振り返った。

 ざっと数えただけで20頭はいるだろうか。円状に包囲するように広がっているのはあのケルベロス。

 息を荒げ、だらしなく開いた口から零れる唾液。……飢えている。

 一頭の例外もなく、ケルベロスたちは皆が飢えていた。血に、肉に。……殺戮に。

 

 包囲され、多勢に無勢もいいところ、といった状況。

 それなのに彼―――久瀬は、口元で笑みのかたちを作った。

 

「―――いいだろう。……準備運動の一環といこうか」

 

 

 

 

 圧倒的。

 もはやそんな言葉しか思い浮かばないほどに、力の差は歴然としていた。

 人間から見れば化け物としか言いようのないケルベロスの体格、そして動き。

 身体能力を特化させた魔物だ。爪は易々と肉を切り裂き、顎は簡単に骨を砕くだろう。

 だがそれでも…まったく歯が立たない。

 

 同時に飛び掛ってきた3頭のケルベロスを認識した瞬間には左の手が閃き、銃を抜いていた。

 瞬間的な抜き撃ち。

 飛び掛ってきた3頭の、ふたつの頭の付け根…ひとつに合わさった部分に的確に一発ずつ。

 祝福儀礼を施した弾頭が寸分の狂いなく突き刺さった!

 

 普通の弾丸なら、一発や二発受けた程度ではまず止まりはしないだろう。

 だがこれは普通の弾丸ではない。

 祝福儀礼を施し、魔に相反する聖弾。

 如何に創られた存在であろうと相手は魔の物であることに変わりはない。

 傷は修復するどころか、逆に爛れ、崩れ落ちる。

 

 3頭を屠ったと同時に左端のケルベロスへと疾る。

 それを迎え撃つかのように飛び掛ってきたケルベロスに右手を一閃……喉元に銀のナイフを突き立てた!

 そこに後ろから襲い掛かってくる新たな気配!

 それを見るわけでもなく、肩越しに左手の銃が轟音を響かる。

 次の一息で十字架を模るナイフを4本投擲。

 対角線を引くように、地に突き刺さったソレは一瞬で結界を形成。同時に5頭を封じ込めた。

 

「!? ―――ふむ。ただのイヌとは違うと言うことか」

 いつの間にか周りを囲まれていた。逃げ道は封じられている。

 一気に一点突破するか、と考えた所で先手を打つようにケルベロスどもが同時に襲い掛かってきた。

 

 全方位からの奇襲。かなりの速度、威力を誇るその襲撃を避けることは不可能。

 だから―――

 

 バヂィ…ッ

 

 久瀬を中心にして、地に光の十字が描かれた!

 その光に触れた瞬間、ケルベロスどもが弾かれる。

 

 天使級捕縛結界エンジェルス

 

 避けることは不可能と判断した久瀬は自分を囲うかたちで結界を形成させていた。

 捕縛結界の中にあって動けないのは久瀬ではないのか、そんな疑問は愚問だ。

 この結界は魔に対して創られたもの。

 天使や人間、ただの動物などには効果などない。これはあくまで魔を封じ込めるための結界だ。

 よって…中心の久瀬は動きを制限されることはない!

 

 ダンダンダンッ

 

 連続で闇に瞬いた銃口炎マズル・ファイア。それを追うように久瀬が結界から跳び出した。

 放たれた弾丸は体勢を立て直そうとしていたケルベロスの中の、久瀬の進行方向にいた3頭を撃ち抜き葬った。

 そこを一気に走り抜ける!

 進行方向は研究施設入り口。

 全力で一気に入り口の中まで駆け抜ける。

 

 グルァァアアアアアッ!

 

 ケルベロスの咆哮が響いた。当然のように久瀬を追おうというのか。

 体勢を立て直したものから順に研究施設に跳び込もうとして―――

 

 その入り口で弾き飛ばされた!

 

「そろそろ相手する時間もなくなってきたのでね…準備運動はここで終わりにさせてもらうとするよ」

 結界に弾かれた、、、、、、、ケルベロスを見ることなく、駆けながらに呟く。

 久瀬は入り口を通ったときに、その両端にナイフを投げていた。そのナイフを結ぶように結界が形成され、魔のモノの通過を阻んでいるのだ。

 

 

 魔の気配に細心の注意を払いながら先に進んでいく。

 研究施設の中は先程までの戦闘からは想像できないほどに静かだった。

 

「これだけの形で生きている施設に誰もいないだと…?」

 そんな馬鹿な、と呟いて奥を目指す。

 

 カツン

 

「…なるほど。下か」

 足を止めた久瀬の前にはエレベーターがあった。

 そして、そのエレベーターを通して…地下から魔の気配が溢れていることが感じ取れた。

 それもかなり大きな、凶々しい気配。

 それを感じ取った久瀬は目を細め、

「迷える子羊に安寧を。狼の牙にひとときの休息を。そして悪魔に死の鉄槌を…」

 

 エレベーターへと乗り込んだ。

 

 

 

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