第58話 灰 は 灰 に − A s h t o A s h −
久瀬は舌打ちした。
全力で右に跳びつつ右の手に握られた銃が火を噴かせる。
ドン、という音と共に祝福儀礼を施された45ACP弾が弾き出され、薄暗い部屋の中に
銃口炎 を眩しく瞬かせた。着弾を確認することもなく、足が地面につくと同時にさらに後ろに跳躍。蜘蛛の糸を躱す。
ザザッと床を滑るように着地すると、体勢と息とを瞬時に整えた。
「―――蟲の分際で」
呟き、まっすぐに蜘蛛の頭部をポイントする。
先程の弾丸は命中していないのか、それとも弾かれたのか分からない。
エレベーターを抜けた
ソコ は異臭と瘴気に満ちたような状況だった。彼方此方で小さな炎が燃え、その炎に照らされ映る醜悪なデキソコナイ。
そして―――そのデキソコナイを喰らう蜘蛛。
その蜘蛛が久瀬の存在に気付き……
今のこの状況だ。
「…ッ」
一瞬で3連射!
寸分の狂いなく蜘蛛の頭部へと迫る弾丸に、蜘蛛は繭塊を吐き出した。
それを視界に収めると同時に横へ跳躍、着地と同時に爆発的加速で蜘蛛へと走る。
繭塊が弾丸を飲み込み、さらに今まで居たところに落ちるのを気配に感じながら、久瀬は蜘蛛の至近距離まで近付いた。
ブンッ
振るわれた前足を回避するという意味合いも含めて、跳躍した。
蜘蛛の上を跳び越すように。
久瀬が跳んだ理由には回避するため以外にも目的があった。
この蜘蛛は悪魔に寄り切っていない。むしろただ単純な蟲としての意が強い。そんな蜘蛛に祝福儀礼を施した弾丸というのは言うほどの効果を持たない。もともと悪魔を討つための弾丸だ。それ以外のモノにはただの銃弾と同じ威力しか持ち合わさないのだ。
だから久瀬は一気に近付き、跳んだ。
ドンドンドンッ!
ハンマーがファイアリングピンを連続的に叩いた!
確かに、ただの銃弾と同程度の威力を持たないのでは致命的なダメージを与えることは難しい。元々堅い蟲の外骨格だ。普通に撃った程度では弾かれるだけかもしれない。
だから久瀬はギリギリまで接近し、さらに上空から撃つことで多少なりの重力加速度を味方につけた。
―――多少の効果はあったか。
着地し、久瀬は何となく感じられた手応えにそんな答えを得た。
空になった
弾倉 を落とし、新たな弾倉 を叩き込む。空気を裂く音に、咄嗟に前に跳ぶ。
ドチャッ
その刹那の間を置いて繭塊が久瀬の居たところを直撃した。
「チッ」
一体何度目の舌打ちか。久瀬はそんなことを考えながらさらにトリガを絞った。
鮮やかに三点射。先程は一応とはいえ突き刺さった弾丸を、今度はいとも容易く弾き返された。
それを確認するよりも早く再び蜘蛛へと疾駆する。
迎え撃つように吐き出された繭塊をサイドステップで躱し、繰り出された爪の刺突を最小限の動作で避ける。
今度は跳ばない。
既に弾丸が無意味だということは分かった。ここは他の手段を講じるしかない。
カン、という軽い落下音。
ベルトに引っ掛けておいた筒状の
ソレ を外して、そのまま蜘蛛の腹下へと投げ転がした。そのまま全力で離脱。一気に間合いを広げた。
瞬間、轟音が炸裂した!
爆風が上がり、真紅の閃光と衝撃波が空間を突き抜ける。
遮蔽物の影に隠れて
それ をやり過ごした久瀬は頭だけを出して爆発元を確認した。小型とはいえ、手榴弾を腹の真下で爆発させたのだ。さすがに無事とはいくまい。
濛々と上がる黒煙の中の気配を探る。
―――やった、か…?
動く気配が何もないのを理由に、遮蔽物の陰から身体全てを出した。
と、そんなところで……黒煙を突き破るように繭塊が弾き出された!
「ッ!?」
反応が完全に遅れた。相手の姿が視認出来ていなかったものだからその射線も知れず、タイミングも計れずに撃ち出された繭塊は虚を突くには十分すぎるほどだった。
パキィン
甲高い、音。
その音の正体を思案するよりも早く、目の前の現実が事実を物語った。
それは、【障壁】。
繭塊を遮断し、消える。
それを見て零れた、これは、という呟きは、
「はぁぁぁぁあああッ!!」
視界に新たに飛び込んできた人影の、裂帛の叫びに打ち消された!
ドゴォン
腹に響くような鈍音を以て蜘蛛の身体が横殴りに吹っ飛ばされた!
黒煙を突っ切り、開けた視界にひとりの人物が映る。
全身にエネルギーを循環させ、鋭い視線のままに蜘蛛を見据える少女。
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