第60話 激 突 す る 意 思
風が吹く。
世界を風が吹き抜ける。
ふたつの風が、ぶつかり合う。
「「うぉぉおおぉおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおッッ!!」」
これで何度目の鬩ぎ合いか。
祐一と堕天使の拳が正面からぶつかり合い、衝撃を空間中に奔らせる!
弾かれ合うように離れ、着地すると同時に祐一が鎌鼬を幾重にも放った。
「ふッ」
それを横っ飛びに回避した堕天使は、お返しとばかりに黒ノ風を解き放つ。
だが祐一はそんなこと当に予測済みだ。一気に跳躍して黒ノ風をやり過ごすと、そのまま一直線に堕天使へと空中から襲い掛かる。
だが堕天使はそれをバックステップで躱し、そのまま眼前に着地した祐一へ蹴りをぶち込んだ。
「ぐ…ッ」
ザザァ、と地を噛むようにして勢いを殺す。
口の中に血の味が広がったが、そんなことはどうでもいい。
ただ、目の前の存在を睨みつける。
「流石に言うだけはあるな。だが…所詮その程度では俺の言葉を覆すことは出来ない…!」
「……まだ終わってないだろ? それに言ったはずだ。――― 教えてやる、ってな」
その言葉を境に、ふたりがエネルギーを高めていく。
全ての細胞に行き渡らせ、活性化させる。
ぴりぴり、と空気が痺れるほどの圧迫感。
圧倒的な敵意。
全神経が震え上がるほどの衝動。
目の前の相手を――― ぶっ潰す!
「いっく、ぜぇ!」
祐一が右手を逆袈裟に振り抜いた。
その瞬間放たれるのは鎌鼬。風は真空となり、刃となって奔る!
「そんなもの…!」
だが堕天使に通用はしない。縦に幅のある
それ を躱すために真横に跳ぶ。その瞬間に、「はぁ…ッ!」
振り上げた右手を一瞬にして横への軌道に変換し振り抜いた!
猛りを上げる真空の刃が堕天使へと襲い掛かる。
堕天使は真横に跳んだ瞬間だ。避けようにも、それは不可能…ッ。
「オォッ」
ゴゥ、と一瞬で黒の奔流が巻き起こり、鎌鼬を相殺させた。
避けられないのならば、消すしかない。
祐一の能力に込められたエネルギーの強さは今までよりもかなり高い。そのために黒ノ風とぶつかりあって相殺する程になっていた。
地を蹴り一気に堕天使へと接近する。
鎌鼬が相殺されることは最初から予想していた。あくまでこれは相手の動きを制限させるためのものでしかない。
本命は、
「こっちだッ」
鎌鼬を消し去ったばかりの堕天使へと祐一が渾身の一撃をぶち込む。
強力に圧縮した空気を拳の先に集中させ、
「【空破】ッ!」
――― 叩きつける!
ドン、という破裂音を伴って堕天使の身体が吹っ飛ぶ。
それを視界に納めながら祐一は荒れた呼吸を落ち着かせた。
今の攻撃は確実にダメージがあったはずだ。あれだけ圧縮させた空気の塊を叩きつけたのだ、絶対に。
「それでも、あんたは立つんだよな」
目の前の……紅の存在を見据えながら、
両の手に風を渦巻かせ、
祐一は呟いた。
「は、はは…。当たり、前だ。俺は、アイツの…ためにヤツを、殺す」
ゆっくりと身体を起こしながら、血を吐き出し、苦しげに言葉を押し出す。
だがその意思が衰えることはない。
未だ、復讐と言う名の諸刃の剱を持って、ただ我武者羅に走り続ける。
そう……復讐こそが自分の存在意義であり、行動理由。
それを否定するということは自身を否定することと同意。
だからこそ……認めるわけにはいかない!
「分かっているのだろう、相沢祐一。
ここ がお前の内の、精神世界だということは」( 「あぁ」
「――― それなら、今対峙している俺たちが何であるかは…分かっているか?」
幾分も呼吸が落ち着いた堕天使の言葉に祐一は耳を傾けていた。
今対峙している自分たち、それが一体何であるのか。それは、なんとなく分かっていた。
「意思、いや……魂って言った方がいいのか?」
「ご名答。その通りだ」
大げさに腕を上げ、堕天使が目を閉じながら言った。
「何が言いたいんだ?」
「……そうだな、いちいち勿体つける必要もないか。あぁ言ってやる。俺たちはひとつの器の上に共存するふたつの魂。俺と、貴様だ。その魂が今対峙し、殺り合っている。これが意味することが分かるか?」
目を開け、祐一を見据え、堕天使は続ける。
「簡単だ。魂が殺しあっているのだから、負けた魂は死ぬ。そうなれば器の上に存在するのはひとつだ。するとどうなる? 残った魂が身体を支配する――― それだけのことだ」
堕天使の言うことは、簡単で単純のようで、実は何よりも重要なことだった。
魂の死というものが一体どんなものなのか、それは完全なる「死」だ。
いや、死という言葉ですら生易しい。相応しいのは「消滅」という二文字。
魂同士の激突で死せし時、それはこの世界からの完全なる消滅。
復活も、蘇生もありはしない。
消え失せる。無くなる。消滅する。
もしここで相沢祐一が死んだならば、後の残るのは堕天使という魂のみ。
相沢祐一は二度と、金輪際姿を見せることはない。否、出来ない。
存在しないのだから、現れる筈もない。
相沢祐一という人物の根底からの破壊、死滅。
根源を失ってしまえば存在は出来ない。
誰もが「魂」を「身体」という器に結び付けているのだ。
どちらか一方でも失えば、それは完全なる「死」だ。
「何よりも
死に近い 殺し合い、か」( なるほどな、と呟き、祐一は瞳を閉じた。
「俺達の決着は、完全な死を以て決する……そう言いたいんだろ?」
「くく、その通りだ」
馬鹿みたいだ。
本当に、バカみたいだ。
こんなことの為だけに、俺は命を懸けているっていうのか。
あぁ本当に――― 莫迦らしい。
「俺を黙らせたいんだろ? ならぐだぐだ言ってないで――― 」
閉じていた瞳を開く。
双眸に敵意を宿して、真っ直ぐに相手を見据える。
「――― 来いよ」
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