第61話   ぶ つ か る 想 い

 

 

 

 復讐なんて、何も生み出さない。

 そんなこと誰だって分かっている。

 それでも、

 目の前で大切な人が殺されて、その原因が分かっていたら―――

 

 誰もが復讐の意思を持つかもしれない。

 

 

 

――― 来いよ」

 

 祐一の言葉に堕天使は笑みを消した。

 笑みを消し、その次の瞬間には地を蹴っていた。

 真正面から、なんの仕掛けもなく一直線に走る。

 

 ぐだぐだ言ってないで―――

 

 あぁ、確かにその通りだ。

 言葉なんて並べても意味はない。

 今は目の前のコイツを殺して、黙らせる。

 そしてその後にアイツ、、、を殺す。

 

 もはや堕天使の想いはひとつ。

 復讐という名の剱は明確な殺意を宿し、今は目の前の相手を殺し尽くす為だけに唸りを上げる。

 この意思を否定することは出来ない。自分自身は剱。諸刃の剱を持って、相手を殺し尽くすだけ。

 だから―――

 

「俺は、貴様を殺す!」

 

 瞬間的に高められたエネルギーが黒ノ風と成し、走りながらに解き放たれた。

 祐一の風とは違い、これはまさに一撃必殺。

 鎌鼬では首を一撃で切り落とすことも出来ないし、裂傷を作るのが限界だ。

 だが、これは違う。

 一触で全てを……消滅させる。

 殺傷力なんて言葉すら生易しい。消滅させるこの風に、その言葉は適用されるのかも怪しい。

 それほどまでに、この能力は他と一線を画する。

 

 だが、そんな能力を前にしても、

「やってみろよ…ッ」

 祐一に恐れは、ない。

 

 迫り来る黒ノ風に祐一はエネルギーを練りこんだ風を叩き付けた。

 エネルギー同士は拮抗し、相殺し合う。

 この場合とて例外ではない。高まった祐一のエネルギーは黒ノ風を叩き潰すに至った。

「っ!」

 相殺した次の瞬間には堕天使が加速によって得たエネルギーをそのまま拳に乗せて唸りを上げる。

 祐一はそれを反射的に捌く。

 だが、それは堕天使も予測済みの行動。刹那の迷いもなく、さらに間を詰めて膝を叩き込んだ。

 そのまま至近距離で黒ノ風を解き放とうとして、それよりも早く腕に生じた裂傷に咄嗟に身を後ろに投げた。

 

 ひとときの空白。

 

 祐一は腹部を、堕天使は腕を押さえて、相手を正面から睨みつける。

 互いに意識ばかりが昂ぶっていく。思考と呼吸は冷静に。それでも意識――― 魂は相手の絶死を渇望する。

 ここまで完全な殺し合いは他にない。

 後にあるのは「無」だけ。何も残らない。

 そんな殺し合いの中に置かれ、人という器の奥底に眠る、生きとし生けるもの全てが持った殺人衝動を浮き彫りにさせていく。

 

 痛みは既に引いた。

 精神世界で痛みは何の意味も持たない。意識を少し組み直せば痛みなど幾らでも抹消できる。

 意味を持つのは「死」。「死」とは消滅。魂の消去。根源の破壊。

 痛みによっての死ではなく、意識においての「死」が、すべてを決す。

 

 瞬速。

 祐一が前動作もなしに鎌鼬を幾重にも放った!

 祐一の風は黒ノ風に単純な破壊力で及ぶことはまずないが、速射性、連射性では凌駕する。

 堕天使が黒ノ風を一度放つ間に、鎌鼬を数回放つことくらい出来るだろう。

 

 堕天使が黒ノ風を撃ち、今しがた放った鎌鼬をすべて相殺する。

 だが、

「ぐッ!」

 その刹那の後に左右から旋回するように迫った鎌鼬が両腕に裂傷を刻み付ける。

 祐一はそれを確認するよりも早く、横っ飛びに黒ノ風を回避して、さらに地を蹴った。

 怯んだ堕天使へと疾走する祐一はまさに風。

 精神世界において、能力の力は普段以上に高まっている。その速度も――― 凌駕する!

 

 正面からの疾走に、既に数メートルとしか離れていない祐一へと堕天使は黒ノ風の第二射を何とか放った。

 ヴン、と。

 祐一の姿が目の前から掻き消える。

「な、」

 堕天使が驚愕に言葉を漏らし、その次の瞬間に、

 

 、ザザッ

 

 真後ろに現れる気配。

 それを感じ取り、振り返って。

 

 ドンッ!

 

 祐一は掌で弓の如く、顔面を殴り飛ばした。

 風を上乗せした掌底はミシ、と相手に音を立てさせて、体勢が崩れた堕天使の背後に更に廻り込んだ祐一はそいつの頭を掴んで地面へと叩き付けた。

 手を通して、腕にまで何とも言い難い感触が伝わる。それの感触を味わうわけもなく、祐一は渾身の力を込めて頭を蹴り飛ばした。

「が、ぅ……ッ」

 堕天使が苦痛に苦悶の呻きを漏らした。

 それを、祐一は見下ろす。何も言わず、ただ、悠然と。

 その祐一が携える瞳を見たら、何と思うだろうか。

 

 それは何よりも、冷たい―――― 氷のような――― 瞳。

 

 きっと普段の祐一を知る人が見たなら、だれもが信じることは出来ないだろう。

 それ程までに鮮烈な、瞳。

 人がこんな目を出来るなんてきっと一生の内に知ることは出来ない。

 出来たとしても、その次の瞬間にはきっと、もう見ることも適わなくなっている。

 だってそれは――――

 

 殺すというだけの、意味しか持ち合わせていないのだから。

 

 その瞳に射抜かれた者は、きっと死を感じ取る。

 自分に訪れるのは何よりも冷たい「死」なのだと、自身の一番奥で感じ取ってしまう。

 そんな色の瞳を、祐一は宿していた。

 

 ふらつく足で堕天使は立ち上がった。

 そして祐一を見る。

―――

 何も、言わない。

 言う必要もない。もう、すべきことはひとつしかないのだと、理解してしまっているから。

 言葉なんて不要なだけ。そんなものはこれからのこと、、、、、、、に必要ない。

 ふたりが互いに相乗するようにエネルギーを高めていく。

 己の魂に訴えかけ、奥底から全てのエネルギーを捻り出していく。

 

 鐘を鳴らせ。

 

 決着の時は近い。ぶつかり合うふたつの意思は、ただ相手の絶死を渇望し、己が肉体はその望みに連鎖する。

 突然の、世界を震撼させる衝撃はお互いの足元から。

 ぶつかり合う殺意は牙となり、鬩ぎ合い、音を立てる。

 

 

 ――― 終わりが、近い。

 

 

 

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