□ 第 6 5 話 妹 を 守 る 姉
「っ、邪魔、よ!」
走りながらに【衝撃】の能力を乗せた拳を前から迫ってきた悪魔の一体に叩き込んだ。
拳が突き刺さった瞬間に衝撃を引き上げ内部へと浸透させる。
どんなに身体を鍛えようと内臓まで鍛える事は出来ない。
内部へと侵入した衝撃は内臓へダメージを与え、それ以前からの並外れた威力で昏倒させられる。
そうして昏倒させたのが今ので13人目。
下端には香里を止めることは出来ない。香里の能力者としての技能は悪魔達の一般よりも上を行く。
ただし、それは
標準の であり、上の立場の悪魔と同等に戦えるかと問われれば答えは――― Noだ。だからそんなヤツ等に遭遇する前に逃げ切る。
それしか手はない、と考えていた。
だけど――― コトは思い通りには進まない。
「うそ――― 」
絶句する。
狭い通路だったところを抜ければ、そこは広い空間になっていた。
円形の空間。二階まで吹き抜けになっていて外の明かりが直接一階まで降り注いでいる。それだけでなく2メートルを超しそうな幅を持つライトが天井からいくつか吊るされていた。
そんな空間に。
「――― ようこそ、美坂香里くん―――――――― 」
柔らかな笑みと、一振りの刀を携えたひとりの悪魔と。
考えるのも嫌になるほどの、使い魔の姿があった。
その数は軽く見積もっただけで50は超える。
一体一体の力量は香里に及びはしないだろう。所詮は数押しの兵隊だ。
だがそれでも塵も積もれば何とやら。
これだけの数をひとりで、それも栞を守りながら戦うなんて無謀もいいところだ。
後ろに退路はある。だが、ここを突破しなければ他に道がないのも事実だ。
ここを抜けることさえ出来れば出口まではもう目と鼻の先と言ってもいい。つまりこれが最後の関門。
一点突破。
それしか手はないだろう。相手もそれを知っている。
だから上手くコトを運ぶのは至難の業だろう。――― だがそれでもやるしかない。
問題は、あの悪魔。
他の使い魔だけならばまだ何とかなったかもしれない。要は最速で突っ切ればいいだけのことなのだから。
だけど、
アイツ は問題だ。( 自分が危惧していた上級悪魔。彼は十中八九ソレだろう。
他の悪魔を圧倒的に打倒する威圧感。あれだけ穏やかな笑みを浮かべているというのに、漂う気配は研ぎ澄まされた刃のソレに近い。
隙を見せれば一刀の元に断ち切れられる。
そんな確信に近い直感。それだけの技量を秘めているのだと、一視で判断した。
「通してくれるわけ、ないわよね」
「そうだね。君を通すわけにはいかない。命令も出てるくらいだからね」
穏やかな声。それなのにどうしても背筋が冷たくなった。
「っ――― 」
「あぁそれと、その子は渡してもらうよ。何でもまだ使えるらしい」
頭に血が上りかけるのを理性で力尽くに捻じ伏せる。
「へぇ、意外に冷静だ。てっきり頭に血が上って後先考えずに来るかと思ったんだけど」
「――― 冷静にでもならないと、貴方の思う壺じゃない」
それを聞いてその悪魔は微かに笑った。
「いいね。それじゃその冷静さがいつまで保てるか楽しみにしてようか」
言って悪魔は指を、パチン、と鳴らした。
それはもう雪崩のようだった。
押し寄せる雪はこの場合は使い魔。50を超える使い魔の群れは怒涛の如き勢いで押し寄せてくる。
使い魔の形状は猟犬。
狩人 と称される悪魔側の大量量産魔だ。( ケルベロス程の強靭さ、素早さ、残虐さはないが、それでも野犬などよりは当然のように上をいく身体能力を誇る。
牙と爪は鋭く、長い。最も特徴的なのは古代に生きた猛獣、サーベルタイガーを思い起こさせる二本の長い牙だろう。
それが50以上。
真っ当から戦って何とかなる数ではない。
一体目。正面から飛び掛ってきた最も速かった狩人。その牙の軌道から横に半歩逸れることで避け、交差する瞬間に顔面に拳を叩き込む。
当然のように【衝撃】は乗せてある。それだけの一撃で脳を破壊されたのか床に着地も出来ず転がり、そのまま動かなくなった。
それを確認することもなく左手を引き、栞を抱き寄せる。
「っ!」
そのまま思いっきり床を蹴る。【衝撃】を脚に働かせ、床を蹴った反動をさらに高める。
跳躍。
一気に二階の通路、その手すりまで跳び、さらにそこを蹴って跳躍。
そんなことをする理由は元よりひとつ。狙いはただ一点、
「はぁ――― ッ!」
鋭い呼気を伴ってその拳を叩き込む。天井とライトとを結ぶそのパイプへと―――!
大狂音が巻き上がった。天井と結ばれていたラインを断ち切られたライトは落下。
2メートルに及ぶほどの巨大なライトが落ちたのだ。その真下にいた数体の狩人が下敷きになる。
その瓦礫の上に着地。怯んでいた使い魔は直に反応できず、その隙は香里にとって好機だった。
ダン、と床を大きく鳴動させる。先ほどと同じ容量で再び跳躍した香里は一気に雪崩のようだった使い魔の群れを跳び越した。
刹那の間を置いて狩人たちが反応しだすが、既に遅い。
香里は一気にこの空間の出口へと跳んでいた。左腕に抱いた栞の温かさを感じながら、右手にエネルギーを集めていく。
「
衝撃 ―――― 」(
呟かれた言葉は力へと連鎖する。
右手に収束するエネルギーは能力を加速させ、次の言葉を渇望する。
香里の目に映っているのは刀を納めたままゆらりと立っているひとりの悪魔の姿。
出口の前に立っているその悪魔を打倒しない限りはそこを通る事は出来ない。だが、真っ向勝負で勝てるとは思わなかった。
だから、この一撃に全てを賭けて――― 倒すことは出来なくても、せめて怯ませる。
落下の加速を味方につけて、己の能力を最大限に引き上げる。
右手に収束したエネルギーは今までで最も強い。
それを全力で、ただ一片の躊躇もなく叩き込む―――!
「――― 【牙
】―――――――!!」 (
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