□ 第 6 7 話
ま だ 死 ね な い 、 だ ろ ?

 

 

 

 その間合いは絶対の域だった。

 背後からとは言え、その速度には及ばない。

 闇を一閃するような白銀の軌跡は心を奪われるほどに流麗で、そしてだからこそなのか、圧倒的な死を連想させた。

 

 ――― 刃が翻る。

 

 抜く手をも見せない閃光のような斬撃は、寸分の狂いなく首を断ちにくる。

 まさに紫電一閃。

 この状況、この間合い。それは全て死への布石。もはや避けることなど不可能。

 最初から危惧していたではないか。あの刀を抜かれた時――― それが終わりの時なのだと。

 

 勝利の確信に次ぐ、敗北の確信。

 そしてそれすらも撃ち抜くような――― 銃声。

 

 

 

「ちッ」

 舌打ちが聞こえた。

 首へと迫っていた刀身は一瞬にしてその向きを変え、銃声と共に飛来した銃弾を弾き落とした。

 その隙に香里は思いっきり地を蹴って後退した。

「今のは……?」

 今の銃弾は確かに悪魔を狙っていた。

 それを考えると助けられたということになる。

 だけど、誰が?

 そんな疑問は、一瞬で霧散した。

 

「動くなよ美坂―――!」

 

 上から聞こえた叫び、そしてそれを掻き消すほどの無数の銃声。

 二階通路から放たれた銃弾の雨はまるで暴風。

 凄まじい速度でばら撒かれる弾丸は狩人イェーガーを次々に屠っていく。

 50発という装填数全てを撃ち尽くすと、そのまま跳躍。香里の真横へと降り立った。

 

「よ、大丈夫か?」

 

 そんな軽い口調に、言葉を忘れてしまった。

 信じられなかった。

 自分の真横で笑顔を浮かべている彼の存在が。

 

「北川くん……?」

「あぁ北川くんだぞ」

 

 茶に染められ跳ねた髪も変わらずに、北川はまるで軽口を叩くかのようなノリだった。

 ただ、その右手に握られている黒い塊のような銃器だけが彼を異質なものに変えていた。

「き、北川くん……あなた、どうして」

 その困惑は当然だった。

 どうして北川が此処にいるのか。そんなこと香里は知る由もなかったのだから。

 いやそれ以前に、北川が悪魔側についたことすら、香里は知らなかった。

「どうして、って」

 ガチャン、と新たなマガジンを差し込みながら言った。

 それから一拍だけ間を置いて、

 

――― まだ死ねない、だろ?」

 

 それだけ言って北川は右手の銃器――― FN P90のトリガに掛けた指に力を込めた。

 瞬間、ばら撒かれるSS90。

 短機関銃でありながら突撃銃張りの貫通力を誇るP90専用弾SS90の威力は絶大だった。

 もともとストッピングパワーに優れた弾丸だ。人体でさえあっさり破壊する威力に狩人が耐えられるはずがない。

 総装填数50発。その全てを撃ちつくした頃には、狩人の姿など半分以下だった。

 数箇所に固まっていたということもあるのだろう。だが、それでもこんな短時間でほとんどを撃ち抜いた北川の射撃能力は目を見張るものがある。

 

 この精密射撃を成し遂げさせた要因に、北川の能力が深く関わってくる。

 【練成】の能力と【歪曲】の能力。

 前者はまったく関係ない。関係あるのは後者だ。

 【歪曲】の能力は目に見えないモノ――― 流れ、軌道という不可視を曲げる。

 銃による精密射撃において重要なのは銃身のぶれだろう。銃身が連射によってぶれるが為に射線は狂い、射撃が逸れるのだ。

 だから、そのぶれさえ抑えてしまえば射線が狂うこともない。

 ぶれるのは銃を撃った時の反動によるものだ。撃てば銃身は跳ね上がる。

 火薬を炸裂させて撃ち出すのが銃という武器だ。その反動も当然相応のものがある。

 だから跳ね上がりもするし、腕が痺れもする。

 

 ――― それを抑えるのが【歪曲】の能力だ。

 

 反動とはいえ、それも流れなのだ。跳ね上がるような軌道で衝撃が走るのなら、逆のその衝撃を有効に使ってやればいい。

 北川は反動を抑えると同時に銃身を安定させるようにその衝撃の流れを曲げていた。

 よって精密な射撃が可能となり、腕への負担も激減する。

 

――― っ!?」

 鋭利な気配に、咄嗟に後ろに跳ぶ。

 その瞬間空を裂く白銀の軌跡。間一髪で跳んだ為にダメージはなかったが、

「、やってくれるな―――!」

 右手に握られていたP90は真っ二つに断ち切られてしまっていた。

 悪魔はそのまま踏み込んでこようとはしなかった。

 様子見、とでも言いたいのか。

 刃は再び鞘へと戻り、ゆらりと立つ悪魔の姿は次の手を読ませない。

 

「美坂。栞ちゃんを」

 言いながら懐から二挺の自動拳銃オートを抜いた。

 

 S&W PC356

 

 それがその銃の名前だった。

 シルバーブラックのデュアル・トーンが特徴的なデザイン。

 S&Wスミス&ウェッソン社のPCパフォーマンス・センター部門が1990年代に限定生産したタクティカル・カスタム――― それがこのPC356だ。

 

「さて――― 、」

 香里が栞の元へ走るのを視界に納めてから北川はゆったりとした足取りで悪魔へと向き直った。

 両手の銃の遊底スライドを器用に引き、構えることなく対峙する。

――― 始めようか」

 

 その言葉を切欠に両者が動く。

 先手を取ったのは悪魔の一太刀。まさに雷光のような踏み込みで繰り出された刃は寸分の狂いなく一撃で絶命させられる箇所――― 首を狙いに来た。

 それを、

 

 ――― ダダダンッ!

 

 左の銃から吐き出された弾丸が許さない。

 瞬速で撃ち出された3発の356TSWは刀の軌道をあっけなく逸らし、それによって生まれた隙を狙うべく右の銃が轟音を奏でた。

 

 2連射。

 

 至近距離で放たれた銃弾は、それでも悪魔に掠りもしない。

 あの距離で放った時には既に離脱していた。有り得ないほどの反応速度。刀という神経を研ぎ澄ます武器は己の限界すらも超えるというのだろうか。

 そう考えて北川の顔に笑みが浮かんだ。

 にやり、と。不敵に嗤う。

 

 

「あぁいいぜ――― 本気マジで来いよ」

 

 

 

 

 

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