□ 第 6 8 話 ガ ン ・ ア ク シ ョ ン
ダンダンダンッ!
銃声が迸った。
銀 と黒 のデュアル・トーンが見る者の目を奪い、そして鮮やかに( 銃口炎 は全てを惹きつける。( 三連続で放たれた弾丸は、それでも掠りもしない。
一発は避け、一発は躱し、一発は弾き落とす。
それだけの動作を一瞬にしてやってのける悪魔の剣舞は恐ろしく迅い。
迅いだけでなく、美しい。その剣舞は多くの者を魅了するだろう。それほどまでに迅く美しい刀の軌跡は視認さえ許さないほどに――― まるで雷光のようだ。
「ったく、9mmパラベラムよりも高速だってのに―――!」
その出鱈目な速度に嫌になる。
この356TSWは9mmパラベラムを超える超高速弾だと言うのに、それを軽々と捌いてみせるなんてどうかしてる。
下手したらマグナム弾すら弾くんじゃないか、なんていう考えが浮かぶほどだ。
「くそ、もっとすげぇ銃を持ってくるべきだったか」
毒吐きながらさらに2撃。ハンマーがファイヤリングピンを叩く音が響いた。
――― この銃、S&W PC356は北川が【練成】したものではない。
この銃は悪魔の施設の、武器庫にあったものだ。
北川はそこに度々出入りしてはいろいろな銃火器を物色していた。
【練成】の能力はその創り出すモノの仕組みを知っていなければ成立しない能力だ。だから北川は数々の銃火器を物色し、見定め、仕組みを調べていた。
その時に見つけたのが、この銃。
一目で気に入った。使ってみれば使い勝手もよく、何よりもデザインが気に入った。
それからと言うもの、北川はこの銃を自らの愛銃と定めたのだ。
かなりのレアモノなのだが、その事実を知ってからまだ日は浅い。
「ちッ」
舌打ちし、身体を捻る。
その刹那の後に抜き身の刀身が一閃された。それを躱せたと確認するよりも早く半歩下がり、
引き鉄 を絞る。(
キン、ガキン、ギィン――― ッ!
至近距離だというのに、その全てを弾き落とす白銀の軌跡。
そのあまりにもの非常識さに半ば呆れながらも一旦距離を取り、
弾倉 を( 再装填 する。( 片手で15発。両手合わせて30発。
それだけの機会がある。その内一発でも目標を捕らえる事が出来れば勝ちは決まりだ。
「まったく……僕等を敵にまわすなんて正気とは思えないね」
「――― いーや、俺たちは正気だぜ。むしろゲームみたいなことを本気で言ってるお前等の方が正気じゃないだろ」
それだけの会話を交わして、地を蹴る。
動いたタイミングはまったくの同時。北川は真横に、悪魔は刀を抜き放って突っ込んでくる。
迎え撃つ2発の銃声。そしてそれを寸分の狂いなく弾き落とす軌跡。
そのいい加減見慣れてしまった光景に舌打ちしつつ、さらに引き鉄を絞った。
もはや距離など3メートルもないというのに、それを弾いてみせるのは如何なる反応速度か。
その速度が出鱈目ならば、踏み込み自体の速度も出鱈目だった。
翻る白銀の刃。
逆袈裟に閃いたそれを躱すべく全力で地を蹴る。
瞬間、目の前を鋭い一閃が通り過ぎた。まさに間一髪。あとコンマ1秒でも反応が遅れていたらどうなっていたことか。
安堵の息を吐いたのと、驚愕の為に息を呑んだのはほぼ同時。
「くっ…!」
ギィン、と金属同士がぶつかり合う音が響いた。
逆袈裟の刃はそのまま向きを変え、袈裟となって再び襲い掛かってきた。
それを受け止めるのは銃の上に盛られた無骨なカタマリ。
「――― やるね、そのタイミングで
創った んだ」( 「このっ」
銃声。吐き出された弾丸は目標を捕らえることなく地面を穿った。
横っ飛びで回避した悪魔はザザッ、と地を噛んで勢いを殺していく。
再び訪れる一時の空白。
その中で北川は数瞬前の奇跡に近い能力行使を思い出していた。
必殺だった刃を受け止めたのは無骨な金属の塊だった。
どんな形にもなれていない、ただの塊。洗練されていないそれは、だが強度だけは十分だった。
あの一瞬の間で「何か硬いモノ」と練成されたのは金属の塊で、それは確かに目的を果たしてくれた。
無茶苦茶な速度で創り出した為になんの意味をも持たないうちに消滅してしまったが、一度でも役に立ってくれたのだから十分か。
だがそれだけ。結局何も戦況は動いていないし、向こうの出鱈目さに嫌気がさしたくらいだ。
このままでは状況に進展は有り得ないだろう。あるとすればこちらの死か。
勘弁してくれ、と思う。
刀に代わって銃が出回るようになったのは偏に刀よりも使えたからだというのに、この状況は一体なんだ。
刀が銃を凌駕するなんて事実、どうにかしてる。
いやもしかしたら近づいてしまったのがいけなかったのかもしれない。あの時二階からひたすら重火器で撃ち続けていればこんなことにはならなかったのだろうか。
そうじゃない。過去を悔やんでも意味はないし、当初の目的を果たした時点で満足するべきだ。それ以上を望むのは贅沢だ。
それにそう、状況に進展がないのなら、こっちから状況を変えてやればいいだけじゃないか。
「――― 仕方ない」
呟いて、北川は銃を懐に仕舞った。
それを見て悪魔は怪訝な表情を浮かべたが、それも一瞬。次の瞬間には鋭い空気を再び纏う。
「切り札――― 見せるぜ」
瞬間左手に【練成】されるFN P90。そしてそれと同時に【練成】されるのは右手の手榴弾。
ピンを口で抜き、それを投げる。
悪魔の舌打ちが聞こえた気がするが、それすらも無視して左手の指が引き鉄を絞った。
ガガガガッと撃ち出される弾丸は丁度悪魔の頭上辺りに到達した手榴弾を貫き、一瞬で爆炎をあたり一面に降らせた。
「ちぃっ…」
今度こそ本当に聞こえた舌打ち。だがそれを聞いてもやることには変化ない。
まだ引き鉄を絞り、爆炎と黒煙によって視界を失われているであろう悪魔へとSS90を撃ち込み続ける。
――― しかし。
黒煙の中、連続的に響く金属音は圧倒的な剣舞だった。
分速900発なんていう馬鹿げた速度だと言うのに未だ致命傷に至らないのは賞賛に値するだろう。
だが、北川にとってみればこの猛撃でさえ布石なのだ。
空いた右手をポケットに突っ込み、そこから2発の銃弾を取り出す。
蒼と、青。
鮮やかな薬莢のその他色な弾丸を指に挟み、【練成】を行う。
エネルギーの流動と共に数瞬で創り出されたのは一挺の
回転式拳銃 。( 最初からシリンダが
振出 された状態で【練成】したソレに蒼の弾丸を込め、( 振入 。( さらにもう1発の弾丸を、コインを弾く要領で上へと弾き上げた。
そして、圧倒的な力を込めて呟く。
「
銃技 ―――――!」(
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