□ 第 7 0 話 撃 退 、 そ し て
夜の街を風が切り裂いた。
真空となった風は刃を持ち、触れたものは音もなく切り裂かれる。
「こ、っの……!」
鋭く左腕を一閃。それだけで流動したエネルギーは一瞬のうちに能力へと変換された。
切り裂かれるのは黒い四肢。
鎌鼬によって四肢を切り裂かれた黒い獣は着地など出来る筈もなく地面に落ち、のた打ち回った。
それを無視してさらに腕を一閃、前方から迫った別の獣を切り裂いてすぐさま横へと跳ぶ。
そして着地と同時に聞こえたのは自分を名を呼ぶ声だった。
「祐一、邪魔!」
「っ、マジかよ!?」
全力で能力を発動。鎌鼬へと変換することなくただ純粋な――― それでいて圧倒的に強力な【風】を真下へと叩きつける。
それと同時に跳躍。真下に放たれた風はそのまま推進力の役割を果たし、祐一の身体を高く持ち上げた。
「――― 潰れろッ!」
その瞬間、地面が円形に陥没した。
陥没したその円の中にいた黒い獣はひとつの例外もなく圧壊。まるで真上から恐ろしいほどの重圧が掛かったかのような現象だった。
「無茶苦茶やるなよっ!」
「うっさい! さっさとそっちを片付けなさいっ!」
「くそッ」
ふたつに分断された獣の集団をそれぞれが迎え撃った。
祐一は一体一体を確実に仕留めているのに対し、夏杞は数体を纏めて圧し潰していく。
当然夏杞の方が先に全てを倒し切った。
「こっちは終了っ。そっちは!?」
「これで――― ラストだッ!」
跳躍した祐一が真下へと空気の塊を叩き付けながら言った。
叩き付けられた空気の塊は獣を押し潰し、絶命させる。それを確認してから深く息を吐き出し、昂ぶっていた自身を落ち着かせた。
「――― ったく、なんでこんなにも急に増えたんだ?」
「そんなこと知らないわよ。とにかく危ないから片っ端から消していくしかないでしょ」
それはそうなんだけど、と祐一は呟いた。
「下っ端ばかりなのがせめてもの救いか。これで悪魔まで出てきたらやっていけないぞ」
「分かってる。早く何かを掴まないと――― いい加減苦しくなるわ」
苦々しく吐いた言葉に込められていたのは確かな焦りだった。
今はまだ被害が出る前に抑える事が出来ているが、それはただ単に相手が然程の力を持っていないからだ。もし襲撃してくる相手が列記とした悪魔となれば話は違ってくる。被害も増え、最悪の場合死傷者が出る可能性もある。
だから焦るばかりだった。
一刻も早く何か足取りを掴まなければ最後には対応出来なくなる。
それだけは避けなければならないのだ。
「ふぅ。じゃあ祐一、ここで分かれて各個撃破。いい?」
「いいけど――― 分かった。じゃあまた後でな、母さん」
言って祐一が駆け出し、夏杞はそれとは逆方向へと駆け出した。
夜の街は寒々と暗く、闇は全てを呑み込むかのように深い。
その中でぽつぽつと浮かぶ街灯の光はまるで穴だった。光の穴。闇から救い出す唯一の光。
そんなことを錯覚させるほどに街の闇は深かった。
「嫌になるなぁ」
はぁ、と呟いてから夏杞は走るスピードを上げた。
ダァァン、なんていう夜に響く大きな音。
「あぁもうっ、そんな大きな音立てたら起きるって!」
さらに地を蹴る足に力を込める。
早く。早く。早く。
気配は走るにつれて高まってくる。そう、これは獣の気配だ。
闇の中漂ってくる獣臭はねっとりと不快だった。
不快だったが、だからと言って気付かなかったふりは出来ない。
角を直角に曲がる。――― そこに。
「二丁拳銃の、堕天使――― ?」
ふたりの少女を背に、真紅の翼が翻った。
左手、自動拳銃から連続で放たれた弾丸は走り寄ってきたケルベロスの眉間を穿ち、さらに眼球と口の中にも叩き込まれた。
右手、無造作に上へと向けられた銃口から放たれた弾丸は上から落ちてきた獣を穿ち、それを連続で三体にやってのけた。
その刹那の後に【練成】されるショットガン。
前方の固まっている集団にただひたすら撃ち込む。さらに高速循環、練成。エネルギーの流動は留まることを知らず、それでいて高速。果ても見えず繰り返し銃器を練成し続けるその様は、まるで曲芸を観ているかのようだった。
「すごい」
そんな素直な感想が夏杞の口から漏れた。
気絶しているのか、動かないふたりの少女を庇いながらも圧倒的に敵を翻弄している姿は驚嘆に値するものだった。
状況分析、空間把握の能力がありえないほど高い。
見てもいないだろうに撃ち抜くその銃撃は恐ろしく的確だった。
「ち……っ」
舌打ちが聞こえた。
その舌打ちの意味を汲み取った夏杞は、迷うことなく地を蹴っていた。
撃ち漏らした一体のケルベロスが少女へと疾駆しているのが嫌でも目に付く。
ふざけんじゃないわよ、と夏杞は地面と水平に落下しながら思った。
地面と水平に落ちていく過程で地面を一度強く蹴り、加速。さらに右腕を弓を引くが如く絞り込む。
――― 重力干渉、切断。
落ち続けていた自身の身体に本来の重力が戻ったと同時に地面を強く踏み込む。
前へと進もうとする勢いをそのまま全て拳に乗せて、解き放つ弓のようにケルベロスの胴体にぶち込んだ。
きゃいん、なんていう妙に似合わない犬らしい悲鳴を上げてケルベロスが地面を転がる。それをショットガンが撃ち抜いていた。
それっきりケルベロスは動くことを放棄した。頭を吹き飛ばされれば当然とも言えるが。
「わりぃ、助かったぜ。―――
相沢夏杞 さん」「どういたしまして。―――
北川潤 くん」(
場に何とも言えない、シンとした空気が流れた。
緊張状態とまではいかないが、それでも油断なんてものは到底ない。
「さて。悪魔側についた筈の北川潤くんが、どうしてこんなところにいるのかな?」
「――― ふたりを頼む」
夏杞の質問には答えず、北川は自分の後ろのふたりへ視線を送りながら言った。
そのふたり。香里と栞は気を失っているのか、動く気配がない。
だが夏杞はそのふたりを見て全てを理解した。どうして北川がここにいるのか。どうして襲われていたのか。そして言葉の意味も。
「あなた、ひとりでどうするつもり?」
「どうするも何も……俺が行ったら面倒になるだろ? 少なくとも相沢とは顔を合わせられない」
でしょうね、と夏杞は頷いた。
「分かった。ふたりはちゃんと私が何とかするから。北川くん、無茶はしないでよ」
そんな夏杞の言葉に北川は苦笑して、
「約束は出来ないな」
確かな決意と共に口にした。
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