□ 第 7 3 話
偵 察 任 務 / 1

 

 

 

 しん、と静寂が包んでいた。

 時刻は丑の刻。全てが眠りにつく、深夜。

 闇夜の森に響くのは夜鳥の泣き声と、僅かな風の音だけだった。

 月の明かりも届かない。

 それほどまでに深い、暗い森の中、闇に紛れるように――― 三つの影があった。

 

「こんなに暗いと、足場も分からないって……!」

「文句垂れてる暇があったらさっさと足を動かしなさいっ」

「あ、あははー……」

 

 緊張感があるのか、それともないのか。

 あるのだろうが、いまいちその感が強く感じられない。

 それは余裕からくるものなのか。それとも不安を隠すためのものなのか。

 恐らくは後者。

 明らかな不安を表に出しては、全員がその気に呑み込まれる。

 だから誰も表に出そうとはしなかった。

 

 視界のハッキリしない森の中を三人は、気配を殺しながらゆっくりと進んでいった。

「大丈夫か、佐祐理さん」

「あ、はい。全然平気です」

 そっか。と納得してから祐一は目の前を歩く夏杞に声を掛けた。

「なぁ、母さん」

「ん?」

 振り返ることもなく、前を向いたまま答える。祐一はかまわず訊いた。

「なんで俺たちが選ばれたんだ?」

 それが祐一の疑問だった。

 何故、夏杞、祐一、佐祐理という構成にしたのか。

 理由は必ずあるはずなのだが、その理由が祐一には考えても分からなかった。

 だが、そんな祐一に夏杞は、

「はぁ?」

 呆れたような声を出した。

「なに、分かってなかったの?」

「……ぅ。なんだよ、やっぱ理由ってあるのか?」

 あったりまえでしょ、と夏杞は言った。

「じゃあまず問題。偵察ってのが今回の目的なわけだけど、偵察において大切なことは何か。三つ答えよ」

「あ、え?」

 突然の問題に祐一の頭は拒否反応を示した。急に偵察の重要点を訊かれても、答えられるほうが珍しいだろう。

「相手の状態を知る。相手に見つからない。確実に帰還する、よ」

 痺れを切らしたのか、夏杞が祐一の答えを待たず回答を示した。

 

 相手の状態を知る。

 偵察において、最も大元の目的。相手の状態を知ることができなければ、それは偵察とは言えない。

 相手に見つからない。

 偵察は元々隠密行動だ。見つかってしまっては相手は対策に状態を再び変えてしまうかもしれない。

 確実に帰還する。

 もし相手の状態を知ることができたとしても、そのことを伝えられなければ意味がない。

 

 これら三つを達成することで初めて偵察と言えるのだ。

「でも、どうして佐祐理たちなんですか?」

 尤もな疑問だった。

 条件を満たすだけならば、他の人でもよかったのではないだろうか。

「理由はちゃんとあるわよ?」

 そうね、と夏杞は続けた。

「まず佐祐理ちゃん。あなたは【感知】の能力があるでしょ? 偵察にそれ以上に最適な能力はないわ」

 【感知】の能力。

 能力者が能力者の存在を感じ取る、その力が数段高まったようなものだ。能力者だけでなく、僅かな気配すらも感じ取ることができる。

 つまりは直接見ることなく、大体の状態を知ることができるのだ。

 これは見つからない、確実に帰還する、という条件にも役立つ。この能力があれば誰もいない、安全なルートを選ぶこともできるのだ。

「それと【加速】ね。祐一の【風】も同じ理由なんだけど……。まぁ、これは逃走用、って感じかな」

 【加速】と【風】の両者に言えること、それは自身の速度を上げる、ということだろう。

 確かに両者共に他の能力者を上回る速度を出すことができる。【加速】ならば自身の身体能力を上げることで。【風】ならば自身の身体を後押しすることで。

 それを踏まえるならば夏杞の【重力】も同じようなものだろう。下へと引き込む力を前へと変換することで、実質走る以上の速度を誇るだろう。

 

「つまりは、佐祐理さんが一番重要な要因なわけか」

「そうね。私たちは援護要員よ、実質は」

 そんなことを言われては、佐祐理がプレッシャーを感じないはずがない。

 つまりは佐祐理に何かがあれば偵察は成功しないということだ。一番重要な要因である自分の失態が、すべてを無為にしてしまう可能性。その可能性にプレッシャーを感じる。

――― っ」

 知らず苦しげに息を吐いていた。そんな佐祐理に気付いたのか、

「まぁ、気楽にね。別にそこまで内部に入り込むわけじゃないし、楽勝よ」

 夏杞がそんな言葉を掛けた。

「……はい」

 それだけで、プレッシャーは幾分か消えてくれた。

 

「……あれか?」

 それから数分歩いただろうか。祐一が前を見据えながら言った。

「そうね」

 夏杞が応える。

 目の前の闇、そのさらに奥。ぼんやりとした視界の奥で、薄っすらと浮かぶシルエット。

 深い森の中、ぽっかりと開いた空間に立つ、ひとつの建物。飾り気もなにもない、実用性一点張りの無駄のないデザイン。

 薄灰色の壁には緑のツタが蒔き付き、外観を隠していた。

 入り口と見られるところには、取り敢えずは誰もいないようだった。

 見張りはいない。それはどうとるべきなのか。

 

「さて、どうしようか」

 にやり、と口元を歪めて、夏杞は言った。

 

 

 

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