□ 第 7 4 話
内 部 / 1

 

 

 

「……こんな局地までご苦労なことだな」

 ぎぃ、と音を立てて開いた扉に向かい、野太い声が投げられた。

 デスクに腰掛けていた長身のその男は、見た目とは合わない軽い動きで床に下りると、殺風景な部屋の中心ほどまで歩み寄った。

「そこまで暇なのか、ヴェルフェゴール」

「まぁ、そう言うな。旧知の友人を訪ねただけの話だろう?」

 く、と笑い、旧知の友人――― ガルスは部屋の中に入ってきた銀髪灼眼の悪魔を迎え入れた。

 

「調子はよさそうだな」

「あぁ。昔ほどの力は出ないにしても、調子は悪くない」

 ヴェルの言葉にガルスは律儀に答えた。

 ガルスは最初と同じようにデスクに腰掛け、ヴェルは閉じたドアに背を凭れさせるようにして立っていた。

 距離にして5メートルほど。他に音のしない室内では呟きですら聞こえそうなほどだった。

「やはりセーブがかかるか」

「【封印】の影響だな。7割が限界、といったところだ」

 忌々しい、と毒づく。その呟きにヴェルは苦い顔を浮かべた。

――― すまない。この話はするべきではなかったな」

 ヴェルの顔を伺ってか、ガルスは言った。

「いや……いいんだ」

 頭を振って苦い思考を振り払う。そして、話を変えるように言った。

「現状はどうなんだ?」

「今は準備を進めているところだ。小規模ながら、ここはあの【天使悪魔の翼】が居るところに一番近いからな」

 妥協は許されない、と続ける。

「兵力を整えるだけなら、あと1週間。さらに慎重にいくなら、それプラス1週間欲しいといったところだ」

「そうか……」

 ヴェルは思案した。

 天使悪魔の翼を手に入れることは重要な課題だ。これが成し得なければ何の意味も持たない。

 兵力を整え、数押しの奇襲で責めるか、それとも、すべてを整え、正面からぶつかるか。

 その二択はどちらにも利点があり、また、リスクもあった。

 

「お前の意見を聞きたい」

「……俺なら、後者だ。リスクはこちらの方が少ない。それに、他からも援軍を出せる」

「なるほど。確かにそれはあるな。無理をしてまで早く攻め込む必要はないか」

「あぁ。それに失敗しては意味がない。やるからには確実にコトを運ばなければな」

 そこまで言って、ヴェルは凭れさせていた背を離すように前に一歩出た。

 そして、ひとつ大きく息を吐いた後、

――― ッ!」

 掌に力を注ぎこんだ。

「……その程度しか力が出ないか。以前と比べればかなり落ちているな」

「そうだ、この程度しか出ない。あの天使もどきに引けを取らないとは言え、上回りもしない」

 悪魔達にしてみれば、今の祐一たちは天使ではない。天使もどきの名が指すように天使の劣化品という認識だった。

 故に祐一たちの力は本来の天使よりも弱い。弱いのだから、悪魔と渡り合えるはずが本来ならばないなのだ。

 それなのに渡り合えているのは偏に悪魔側の力が落ちているからに違いない。

 もし、悪魔達の力が落ちることなくそのままだとしたら――― 祐一たちは何も出来ず嬲り殺しにあっている。

 

「【バイス】は使えるのか?」

 ガルスが訊いた。

 バイスの名が指すのは、ただひとつ。

「なんとかな。顕現させるのに力をかなり使うが……出せれば以前に近いくらいの能力が使える」

 そうか、とガルスは苦く呟いた。

「あの【剣】は強力だ。切り札とも成り得る。それが使えるだけ、まだマシと言う事か」

「だが過信しないでくれよ。切り札に成り得るとしても、顕現には力を食うんだ。そう何分も維持できるものじゃない」

「分かっている。――― あぁ、お前は道さえ切り開いてくれればいいんだ。後は、」

「お前の役目、か」

 く、とガルスが笑った。

 その顔に浮かんでいたのは、闘争を心待ちにする戦士の顔だった。

 ガルスは闘争を好む。

 殺戮や虐殺は軽蔑と共に嫌うが、闘争を好む性分だった。より強い者と。より愉しめる相手を。

 全力でぶつかり合える相手を、ガルスは常に心待ちにしている。

 そういう意味では、ガルスにとってヴェルは最高の相手だった。

 

「ヴェルフェゴール、手合わせ願えないか?」

 軽い口調でガルスが言った。

 既に手を鳴らしているところをみると、やる気は充分らしい。

「遠慮しておく。お前とやりあうと体力がついていかないからな」

 そんなガルスの言葉にヴェルは苦笑いと共に、拒否の言葉を返した。

 

 

 

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